本研究は、我が国において期待の高い地熱開発に関して、既存温泉事業者との間の合意形成課題の克服と、持続的な資源利用を政策的に目指すものである。本研究では欧米の先行事例の政策ツールを調査し、地熱開発のプロセスと統合された「手続統合型 SEA」を用いる政策モデル開発を目指した。研究期間の前半に実施した海外の先進事例調査では、スイスのバーゼル市郊外とザンクト・ガレン市におけるEGS開発事業を対象に、事業主体や自治体にヒアリングを実施するとともに、チューリッヒ工科大学(ETHZ)の地熱発電誘発地震のリスク評価研究室と合同のセミナーを実施し、加えて現地の地下開発リスク管理会社(リスコダイアローグ)からの情報提供を受けた。その結果、両事例において地域住民の受容性に大きな差異が生じたが、その要因として、事業主体の情報提供の方法の違いが指摘された。具体的には、開発着手前のリスクコミュニケーションの内容の具体性が受容性向上に寄与していることが示された。また、ニュージーランドの先進事例調査では、ワイカト広域自治体におけるNgatamariki地熱発電所開発の事例を基に、開発事業者、中央政府、広域自治体、地元地熱観光事業者等の関係者に、開発のプロセス、政策および計画の策定手法の調査を実施した。この結果、上位段階からの地元自治体による積極的な政策・計画管理とその際の戦略的環境アセスメントに相当する影響評価の実施などが、有効な開発政策として抽出された。加えて、国内の地熱ポテンシャルが想定される火山島の伊豆大島を対象として関係者の意識調査を実施した。この結果、温泉事業者の懸念するリスクに対する事前評価項目と対策オプションの選好が明らかになるとともに、開発地周辺の研究機関、地域の公的機関、金融機関の関与した開発プロセスのマネジメントが、地域的な合意形成に効果的であることが示唆された。
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