乳仔からの吸乳刺激は母ラットの弓状核におけるキスペプチンおよびその遺伝子であるKiss1 mRNA発現を抑制する。この抑制がラット授乳期の性腺機能抑制に関与すると考えられているが、吸乳刺激を弓状核のキスペプチン神経に伝達する神経経路やメカニズムは明らかとなっていない。我々は、前年の研究により、脳幹と視床におけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP) 発現が授乳期で増加すること、また、視床の脚周囲核 (PP) のCGRP神経が90分の吸乳刺激により活性化することを発見した。本年度はPPのCGRP神経の投射部位と授乳期における役割を調べる研究を行った。PPから視床下部腹内側核 (VMH) や尾状核-被殻 (CPu) への神経投射が報告されていたので、PPのCGRP神経がVMHやCPuに投射するか調べるために、VMHやCPuに逆行性トレーサーであるフルオロゴールド (FG) を投与し、PPにおけるCGRPとFGの二重染色を行った。その結果、PPのCGRP神経はCPuに投射するが、VMHにはあまり投射しないことが明らかとなった。PPのCGRP神経の授乳期における機能を調べるために、PPへのイボテン酸投与による神経破壊が授乳期の母ラットおよび乳仔に与える影響を調べた。 吸乳刺激が弓状核のKiss1遺伝子発現を抑制する細胞内メカニズムを調べるために、転写因子やエピジェネティック効果に着目した。キスペプチン遺伝子のプロモーター部位にはpERKやpCREB結合部位が見られたので、授乳ラットと非授乳ラットの弓状核におけるERKとCREBのリン酸化状態をウェスタンブロットにより調べた。また、遺伝子発現の抑制にはヒストンのアセチル化や遺伝子のメチル化が関与する可能性も考えられたので、関連遺伝子の発現量もreal-time RT-PCR法で調べた。
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