研究課題/領域番号 |
25870625
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
服部 能英 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (50514460)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | BNCT / ホウ素薬剤 / 癌 / ホウ素クラスター |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法 (BNCT) 用ホウ素薬剤の分子設計において、アニオン性のドデカボレート([B12H12]2-)は、高いホウ素原子占有率、低毒性および高い水溶性など、ホウ素薬剤に求められる性質を備えていることから、有望なホウ素原子団であると考えられている。しかし、無機性のドデカボレートを腫瘍親和性有機分子に直接導入することは困難であり、その有機分子化に関する報告例は非常に少ない。 そこで本研究では、これまで殆ど研究されてこなかったドデカボレートアンモニウム([B12H11NH3]1-, DB-NH3)を、腫瘍親和性有機分子に導入した新規なホウ素薬剤の開発を目的として展開するものであり、DB-NH3を導入するための素反応の開発、および腫瘍細胞による集積性と細胞内分布、中性子線照射による殺細胞効果等の生物活性評価を行う。 26年度の研究では、DB-NH3への保護基の導入とモノアルキル化することのできる反応方法について詳細に検討を行った。また、前年度に合成したDB-NH3を導入したアミノ酸誘導体(AA-BNH2)の種々の腫瘍細胞への取り込み量の比較も行った。 その結果、イミン中間体を経由することによって極めて限定的な条件下でモノアルキル化することに成功したが、その収率は低く、実用的なモノアルキル化反応の確立には未だ至っていない。一方、保護基に関しては、種々のイミン型あるいはウレタン型の保護基を高い収率で導入することのできる条件を確立した。 また、昨年度合成したAA-BNH2に関しては、グリオーマ細胞、メラノーマ細胞あるいはカルシノーマ細胞などの様々な細胞に幅広く集積するという結果が得られ、非常に有望な化合物であるということが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、1.DB-NH3の有機分子化反応の開発 2.DB-NH3含有腫瘍親和性化合物の設計・合成 3.BNCT用薬剤としての評価 の3種の研究から成り立っている。本年度においては、その3点に関してそれぞれ一定の成果を得ることができた。 まず有機分子化反応の開発に関しては、昨年度までにアシル化反応に焦点を当てて検討を行いその条件をすでに確立している。そこで今年度では、DB-NH3のモノアルキル化反応について詳細に検討を行うこととした。これまでの先行研究などの結果を踏まえ、DB-NH3を直接モノアルキル化することは非常に困難であることが明らかとなっているため、種々の保護基をDB-NH3に導入した後に、モノアルキル化を行うという手法について検討を行った。その結果、まずイミノ型の保護基およびウレタン型の保護基を効率的に導入することのできる手法を確立することができた。そして、イミノ型の保護基を導入した後に、アルキル化反応を行うことで、極めて限定的な条件下、および反応基質に対してモノアルキル化が可能であることを見出した。しかしながら、その条件は非常に限られており、DB-NH3を様々な基質に導入するための新たな手法としては利用できないものであった。 また、前年度に合成したDB-NH3を導入したアミノ酸誘導体(AA-BNH2)の種々の腫瘍細胞への取り込み量の比較も行った。これらの化合物は、グリオーマ細胞、メラノーマ細胞あるいはカルシノーマ細胞などの様々な細胞に幅広く集積するという結果が得られ、非常に有望な化合物であるということが確認できた。しかし、京都大学原子炉実験所の原子炉が、予定に反して休止中であるため、計画していた生物活性試験の全てを行うことができなかった。 以上の結果から、本年度の目的を達成することはできず、これを達成するために研究期間を延長する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
26年度につづいて、1.DB-NH3の有機分子化反応の開発 2.DB-NH3含有腫瘍親和性化合物の設計・合成 3.BNCT用薬剤としての評価の3点について平行して研究を進める。 まず、DB-NH3の有機分子化反応としては、引き続きDB-NH3モノアルキル化反応の反応検討を行い、新たなDB-NH3の有機分子化反応の開発についても検討を行う。具体的には、DB-NH3の窒素原子にウレタン型あるいはスルホンアミド型の保護基を導入後、モノアルキル化反応を行うという段階的なモノアルキル化反応である。本反応を確立することによってより多彩なDB-NH3含有化合物の合成につながるものと期待できる。 また、25年度に合成したアミノ酸にDB-NH3を導入した誘導体(AA-BNH2)の詳細な生物活性試験を行うとともに、その誘導体をさらに複数合成し、多彩なAA-BNH2ライブラリー構築を行う。特に、アミノ酸の側鎖部位にDB-NH3を導入した化合物や、アミノ酸以外の腫瘍親和性分子を母核としたDB-NH3含有化合物の設計・合成を計画している。また、上述したDB-NH3のモノアルキル化反応が確立でき次第、これを利用したDB-NH3含有化合物の設計・合成を進める。 そして、新たに合成した化合物についてスクリーニングを行い、BNCT用のホウ素薬剤として利用可能なリード化合物の創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度の研究では、DB-NH3への保護基の導入とモノアルキル化することのできる反応方法について詳細に検討を行った。しかしながら、イミン中間体を経由することによって極めて限定的な条件下でモノアルキル化することに成功したものの、その収率は低く、実用的なモノアルキル化反応の確立には未だ至っていない。そのため、予定していた新規DB-NH3含有化合物の合成および評価が行えなかった。そこで、反応条件のさらなる検討と、これを利用した新規化合物の合成および評価を行うための予算を次年度使用額として計上することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度につづいて、1.DB-NH3の有機分子化反応の開発 2.DB-NH3含有腫瘍親和性化合物の設計・合成 3.BNCT用薬剤としての評価の3点について平行して研究を進める。これらの研究を推進するにあたり、各研究を推進するための試薬およびガラス器具などの消耗品に、次年度に使用する予算を利用する予定である。また、これらの研究成果について、日本ペプチド学会や日本薬学会などで発表を行う予定であり、これらの学会に参加するための旅費として、予算を利用する予定である。
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