本研究では、遠縁交雑育種の障害となる雑種致死について、タバコ属植物を用いていくつかの実験を行った。 (1)雑種致死原因遺伝子HLA1の位置を絞り込むことを目的として、新たなDNAマーカーの開発を行った。HLA1に連鎖するマーカーC-NbRGH1が、公開されているN. benthamianaドラフト配列の特定のスキャフォールドに含まれることに着目し、該当のスキャフォールド配列を基にしていくつかのDNAマーカーを開発し、HLA1の周辺に位置付けた。今後は同様の手法によってDNAマーカーを開発し、多数のF2植物を用いることでHLA1の候補領域をさらに絞り込むことが期待される。 (2)野生種N. amplexicaulisとN. tabacumとの交雑では、致死性雑種だけではなく、生存雑種が高頻度で出現することを明らかにしている。本年度は、実験に供試したN. amplexicaulisの雑種致死原因遺伝子がヘテロ接合であった可能性を検証するために、十分に自殖を重ねたN. amplexicaulisを用いてN. tabacumとの交雑を行った。その結果、致死性雑種と生存雑種が出現したことから、N. amplexicaulisが遺伝的に固定されていなかったために生存雑種高頻度出現現象が認められたのではないことが明らかとなった。今後、この現象を解明することで、雑種致死の新奇克服技術の開発につながることが期待される。 (3)野生種N. occidentalisのある系統をN. tabacum(ゲノム構成SSTT)と交雑すると、N. tabacumのSとTの両ゲノムを原因とする雑種致死が生じることを明らかにしている。本研究では新たに5系統のN. occidentalisを入手し、全6系統の染色体数およびITS領域による系統解析を行ったうえで交雑実験に供試した。これらの5系統は、いずれもN. tabacumとの交雑で得られた雑種実生に致死性を示したが、N. tabacum祖先種との交雑では致死性発現の有無が異なっていた。そこで、N. occidentalis系統間の雑種を作出し、雑種致死の遺伝解析を行った。
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