研究実績の概要 |
本研究では、花粉症などのⅠ型アレルギー疾患に対して有効となる山椒由来の抗アレルギー成分を探索し、その作用機序を解明することを目的とている。初年度はラット好塩基球性白血病細胞株RBL-2H3を用い、抗原刺激によって惹起される化学伝達物質遊離(脱顆粒)反応を抑制する作用を指標として山椒抽出物のスクリーニングを行った。その結果、抗原抗体反応による脱顆粒を抑制する物質として、二つの化合物を特定した。平成26年度は、それら二つの化合物の構造・組成が未同定であったため、二つの化合物の構造・組成の同定を行うために、新たに山椒から成分の抽出を行い目的成分の精製を行った。精製された二つの化合物の組成分析、構造解析を行い、化合物2種(化合物1,2)を同定した。また、精製された化合物1,2を用いて脱顆粒抑制試験を実施したところ、粗精製品よりも強い脱顆粒抑制作用を示したことから、精製された二つの化合物1,2はin vitroにおける抗原抗体反応による脱顆粒反応を、間違いなく抑制する作用を有することが判明した。さらに、化合物1,2の脱顆粒抑制作用の作用機序を解明するために、まずは細胞内カルシウムイオン濃度の変化を捉えるためのカルシウムイメージングを実施した。その結果、抗原抗体反応によって起こる脱顆粒反応には細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が必要であるが、化合物1,2はそのカルシウムイオン濃度の上昇を抑制することが明らかとなった。化合物1,2は抗原抗体反応による細胞内カルシウムイオン濃度上昇を抑制することから、カルシウムイオン濃度上昇が起きるまでのシグナル伝達を抑制していることが示唆された。詳細な作用機序を解明するために、ウエスタンブロット法により細胞内カルシウムイオン濃度上昇が起きるよりもさらに上流のシグナル伝達に着目し、そのシグナル伝達に関与する蛋白質のリン酸化の程度の評価を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山椒由来抗アレルギー成分が未同定であったため、組成分析・構造解析を行い、化合物1,2を同定した。平成26年度では、抗アレルギー成分の作用機序の解明に着手することを計画していた。実際には計画通り、作用機序の解明を開始した。主に化合物1を使用し、抗原抗体反応によって起こる細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を直接的に観察、解析し、抗アレルギー成分による細胞内カルシウム濃度上昇抑制作用の有無を判断することが第一の計画であったが、その計画通りに研究を遂行し、化合物1,2は抗原抗体反応による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を抑制することを見出した。化合物1,2添加によってカルシウム濃度上昇が抑制される場合はカルシウム依存型経路に、カルシウム濃度上昇が起きる場合はカルシウム非依存型経路に化合物1,2が作用していると考え、それぞれに関連する蛋白質の発現を分子生物学的手法によって解析することを目標としていたが、カルシウムイオン濃度上昇が抑制されたことから、そのシグナル伝達に関与する蛋白質として、Lyn、Sykのリン酸化の程度の解析を開始した。また、脱顆粒の際に生じる膜ラッフリングを評価する手法を検討した。以上の進行状況から、当初の計画通りに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は26年度に引続き、山椒由来脱顆粒抑制作用を有する化合物1,2を用いて、その詳細な作用機序を解明する。これまでに、山椒由来化合物1,2は抗原抗体反応による細胞内カルシウムイオン濃度上昇を抑制することが明らかとなっている。したがって、化合物1,2の脱顆粒反応抑制の作用機序には、化合物1,2が①直接的に細胞膜に作用し、細胞外からのカルシウムイオンの流入を抑制する作用と、②細胞内シグナルに影響してカルシウムイオン濃度の上昇を抑制する作用のどちらかであると予測される。そこで、①の直接的な細胞膜への影響は、近年利用が増え始めている水晶振動子マイクロバランス(QCM)法による人工脂質膜と有効成分の分子間相互作用解析や細胞膜に穴を開けて強制的に細胞内へカルシウムを流入させるカルシウムイオノフォアの細胞膜への開口作用に対する抑制効果をカルシウムイメージング法によって調べることで評価する。また、②の細胞内シグナルに影響しているかどうかは、シグナル伝達に関与する蛋白質をウエスタンブロット法等によって解析する。
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