研究実績の概要 |
本研究では、花粉症などのⅠ型アレルギー疾患に対して有効となる食品由来成分を探索しその作用機序を解明することを目的とし、特に山椒を対象として研究を実施した。 初年度はラット好塩基球性白血病細胞株RBL-2H3を用い、抗原刺激によって惹起される化学伝達物質遊離(脱顆粒)反応を抑制する作用を指標として山椒抽出物のスクリーニングを行い、次年度は、核磁気共鳴装置および質量分析計を用いて二つの化合物の構造・組成を同定した。さらに、これら二つの化合物(化合物1,2)の脱顆粒抑制作用の作用機序として、化合物1,2は脱顆粒反応に重要な役割を果たす細胞内Ca2+濃度の上昇を抑制することを明らかにした。 最終年度には詳細な作用機序を解明するために、ウエスタンブロット法により細胞内Ca2+濃度上昇が起きるよりもさらに上流のシグナル伝達と細胞内Ca2+濃度上昇に関与しないシグナル伝達の両者に着目し、蛋白質リン酸化の解析を行った。その結果、化合物1,2ともに細胞内Ca2+濃度変化に非依存的であり顆粒の細胞膜への遊走に関わるFynのリン酸化を抑制した。また細胞内Ca2+濃度上昇に関与するLynの活性化抑制にも関与している可能性が明らかとなった。また、脱顆粒の際に細胞膜が劇的に変化する膜ラッフリングという現象が起こるが、これを捉えるために、抗原刺激後に走査型電子顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡で細胞膜の形態観察を行い、化合物1,2によって膜ラッフリングが抑制されていることを見出した。 以上、本研究において山椒に含まれる化合物1,2は抗原抗体反応による脱顆粒を抑制すること、その作用機序はFyn、Lynのリン酸化抑制や、膜ラッフリングを抑制することによると示唆された。また、山椒以外の抗アレルギー作用を有する食品の探索も行い、その中で、梅に含まれるいくつかの物質にも山椒と同様の脱顆粒抑制作用の可能性を見出した。
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