本研究の目的は、遠距離介護者、高齢者、専門職者のコミュニケーションの分析を通じて、遠距離介護の困難軽減につながる技法および支援の可能性を探究することにある。 今年度は、遠距離介護が行われている家庭にケアマネジャーが月に1回行う訪問場面に同席しての調査に加えて、遠距離介護者が参加した数ケースのケア会議のビデオ撮影の分析を行った。 分析の結果、支援者は遠距離介護者に対して「提案」を行う際に、専門用語をわかりやく言い換えたり、その意図について詳しい説明を行うことで、遠距離介護者が専門家ではないことに志向しつつも、「提案」の可否に参与すべき意思決定の重要な主体であることを示していた。 一方で、そのようにして遠距離介護者に対して差し出された提案に対して、遠距離介護者は些細にも思える笑いや視線によって、支援者が強く差し出していた提案を、非常に弱い形へと変化させることがあることなどが明らかになった。 また老親の生活環境に密着していないがために、遠距離介護者の老親に関する知識の欠如の問題が生起しているコミュニケーションにおいては、遠距離介護者は知らなかった老親の行為を、遠距離介護者がトピックの転換を行う形で焦点化し、老親を「気にかける」といったふるまいをしていることも明らかになった。加えて、遠距離介護者が知らなかった老親の行為に対する支援の「提案」に関して、支援者と遠距離介護者の間で方向性は一致しながらも、判断の根拠となる、どちらが老親のことをより良く知る人間かの位置づけ、すなわち老親に関する「知識の上下関係」の競合が生じうることも確認された。
|