本研究の目的は、遠距離介護者、高齢者、専門職者のコミュニケーションの分析を通じて、遠距離介護の困難軽減につながる技法および支援の可能性を探究することにある。 今年度は、遠距離介護が行われている家庭にケアマネジャーが月に1回行う訪問場面に同席しての調査に加えて、関係専門機関の担当者の多くが集まって行われる、ケア会議やサービス担当者会議に同席しての調査と分析を行った。 分析の結果、遠距離介護者や支援者が、親の施設入所や同居の困難など、デリケートで言いにくい問題について、何らかの提案をしなければならない時、統語的に未完結な状態で発話を産出し、他者の反応を確認する機会を創出する場合があることが明らかになった。こうしたケースの中で、さらに興味深い現象として、会話の別の参与者が統語的に連続する形で発話を産出してターンを終了させる、「共同完了(co-completion)」が遂行される場合があることが発見された。共同完了は、先行発話と後方発話のそれぞれを産出している、二者が同じ立場であることを示すプラクティスであり、遠距離介護の意志決定に重要な意味をもたらすと考えられる。それゆえ共同完了を通して遠距離介護者と支援者のコミュニケーションの問題を解明することは、離れて暮らす家族が参加するケア会議における相互行為上の課題である、離れて暮らす家族の思いをどのように扱いながら介護方針の意思決定を行うか、の方法を記述することに繋がることが明らかになった。
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