本研究の目的は、遠距離介護者、高齢者、専門職者のコミュニケーションの分析を通じて、遠距離介護の困難軽減につながる技法および支援の可能性を探究することにある。 今年度は、これまで得られた分析結果の比較・統合を行なった。その結果、以下のことが明らかになった。すなわち、遠距離介護に携わる離れて暮らす家族と福祉の支援者の間で取り交わされる相互行為では、遠距離介護の意思決定と関連して、相互行為上対処が必要な課題が生起することがあった。たとえば、それは離れて暮らす家族の利益を追求することで、彼らが老親に対して経済的な負担を行えないことや、高齢者本人のために支援者が行なうアセスメントが、離れて暮らす家族の意向と大きく食い違い、家族の意向を配慮できないといった、遠距離介護にかかわる道徳的なジレンマであった。こうしたジレンマに対処するために、大きく以下の2つの方法が用いられていた。すなわち、①協調するスタンスを示しつつも独立した知識の優位性の主張を行なう終助詞「よね」の使用、②順番単位の内部の区切れを利用しての順番の共同完了、である。そしてそうした方法を通じて、参与者間での責任の分散が成し遂げられ、遠距離介護の意思決定に関する道徳的なジレンマの対処が可能になっているのであった。 今後は、遠距離介護の意思決定に、高齢者本人が参加した場合、そこにどのようなジレンマが生じ、どう対処されているのかについての解明が課題であると考えられる。
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