本研究の目的は,東日本大震災により被災した東北地方の風評被害により失われた自然体験型観光の便益を計測することであり,仮想的旅行需要関数の概念を用い,Narukawa and Nohara(2011)のセミパラメトリックカウントデータモデルを改良した新たな手法を応用することで,従来の研究より精緻な需要関数の推定を行うことである.東日本大震災後から現在までの3年間において,実際に福島県を旅行で訪れた回数(顕示選好データ)と,放射能漏れ事故がなかった場合を想定した仮想的な状況下での訪問回数(表明選好データ)をインターネット調査により収集し,風評被害により失われた旅行便益の計測を行った.インターネット調査により収集したデータは,疑似オンサイトサンプリングデータであり且つカウントデータであることを考慮し,便益計測の推計において必要となる旅行需要関数の推定には,オンサイトサンプリングの影響を考慮したポアソン逆正規回帰モデルを,変量効果モデルの枠組みへと拡張したポアソン逆正規変量効果モデルを提案した.その推定結果から,福島県の過去3年における失われた旅行便益は,約3.745兆円であることが分かった. これまでの先行研究においては,風評被害により失われた観光の便益を推計したものが存在しなかったことから,風評被害の影響が福島県の観光に影響が残る社会的情勢を鑑みて,本研究の意義は大きく,またその重要性も高いものであると考えられる.
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