本研究の成果として、 Mineral trioxide aggregate(MTA)が象牙芽細胞の分化促進のみでなく、直接的に骨芽細胞の分化・石灰化促進をすることとを見出した。また、この石灰化促進機構は、低濃度MTAによる、小胞体ストレス応答を伴うものであった。 本研究の目的であるMTAの骨誘導能を評価したところ、骨芽細胞の石灰化を促進した。しかし、この石灰化促進は、既知の初期分化促進因子の発現亢進をを伴うものではなかった。それにもかかわらず、MTAは骨芽細胞で、コラーゲンの合成促進と蓄積亢進を伴い、また、オステオカルシンの遺伝子発現増加と分泌量の増加を示した。 この機序につき、小胞体ストレス応答に注目し、解析を行ったところeIF2α/ATF4経路やOASIS発現の上昇は認められなかったが、ATF6遺伝子とタンパクレベルでの発現促進が確認できた。そこで、MTAによる何らかの刺激が小胞体ストレスとして作用し、ATF6の発現促進を介して、オステオカルシンの遺伝子発現を促進することで、石灰化促進に関与ているのでは、という仮説を立てて検証を行った。その結果、MTAの刺激によって、オステオカルシンプロモーター領域のATFREに結合する、p50 ATF6の増加が認められた。また、p50 ATF6の強制発現では、オステオカルシンの発現が有意に促進した。さらに、ATF6のshRNAを発現する安定細胞株では、MTAによるオステオカルシンの発現促進と石灰化の促進は認められなかった。 これらのことから、MTAは、ATF6の発現促進を介して、オステオカルシンの遺伝子・タンパク質の発現を促進する。このことで石灰化が促進していると考察できる。
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