研究課題/領域番号 |
25870664
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
下司 優里 東日本国際大学, 公私立大学の部局等, 講師 (40615738)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カナダ・オンタリオ州 / 知的障害 / インクルージョン / 共生社会 / 補助学級 |
研究概要 |
本研究は、あらゆる「差異」を包摂する共生社会の実現に向けた課題と方法について示唆を得るため、多様性の受容について今日、世界的に高い評価を受けているカナダが、「人間の『差異』をどう扱うか」というインクルーシブ社会で最大のタスクを社会不適応の典型とされる知的障害に対してどのように達成しようとしてきたのかを解明することを目的とする。平成25年度は次の研究作業を行い、成果を得た。 ①一次資料に基づいた先行研究の検討を行い、分析課題を設定するとともに、入手すべき資料の抽出・検索・整理を行った。 ②①から抽出された資料のほか、カナダの知的障関係団体、研究機関、および行政機関等の系統的資料を入手した。電子書籍、カナダの古文書データベース、カナダ国立図書・公文書館や州公文書館の複写サービスを利用して入手したほか、希少性と保存状態から貸借・複写禁止の重要史料については、現地カナダ・オンタリオ州のトロント大学において所蔵調査と資料収集を行った。 ③②において入手された資料の分析・読解を行った。その結果、次のことが明らかとなった。カナダ・オンタリオ州では、1950年代に結成された知的障害児の親の会が中心となって1960年代から脱施設化の取り組みが加速する。そして、1970年代前後からは入所施設の解体と知的障害者の地域コミュニティへの移行が政策的に進められてきた。先行研究によれば、親の会による脱施設化の主張の根拠には、第二次世界大戦以前の「精神薄弱」者施設保護収容策への根強い批判があったという。実際の知的障害者入所施設では、1920年代前半までこそ、効率的運営の命題のもと恒久保護と施設内自立が目的として採用されていたものの、むしろ1920年代末には知的障害の遺伝性・多産説を否定する施設長により一部の入所者に対してコミュニティへの復帰を目的とした方策が試行されていたのであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度である平成25年度は、主として(1)先行研究の検討、研究討議、(2)資料の収集、(3)資料の分析・整理の3つの基礎的作業を実施することを計画した。(1)については、学術集会での発表ならびに先行研究者との討議を通して研究方法の妥当性と進捗状況の検証を行い、計画以上の進展が見られた。(2)については、時間的制約により予定していた2回の資料収集が1回しか実施できず、平成26年度への持越しとなった。そのため、(3)の資料分析の進展にも影響が出ているが、国内で入手できる資料について優先的に作業を進めており、全体として計画の遅れはない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、カナダ・オンタリオ州の公立学校ならびに知的障害者施設を主たる検討対象としている。行政機関、知的障害関係団体については研究遂行に十分な史資料があるため、引き続き、史資料の読解と分析を進めるとともに、関連研究者との定例研究協議を行ってより多面的な検討を加えていく。一方、知的障害者施設および公立学校補助学級については系統的史資料にやや制約があるが、先行研究や二次資料の活用のウエイトを増やし、一次資料だけではなく類似する他都市・他州・他国との比較研究に研究計画の微修正を行うことによって、その資料的制約を克服すれば、当初の研究目的が達成されると見込める。
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