研究課題
ホスファチジルコリン(PC)はミトコンドリア膜の主要な構成成分であるが、ミトコンドリア自身はPCを生合成できない。そのため、細胞内には小胞体やゴルジ体などで合成されたPCをミトコンドリアへ運ぶ細胞内脂質輸送機構が存在すると考えられてきたが、分子レベルでのメカニズムの詳細は未だ不明な点が多い。以前、申請者はN末端にミトコンドリア移行配列を、C末端に脂質輸送ドメインを有するタンパク質StarD7を見出し、本タンパク質がミトコンドリアへPCを輸送する活性を持つことを見出した。本研究ではStarD7をノックダウン(KD)またはノックアウト(KO)し、ミトコンドリアのリン脂質組成への影響を解析するとともに、ミトコンドリアの機能や形態形成への影響についても解析した。Hepa-1細胞のStarD7をsiRNAでKD後、ミトコンドリア呼吸および複合体の活性をリアルタイム測定した。その結果、StarD7の発現低下により酸素消費および複合体の活性が低下した。また、複合体I、II、IIIのタンパク質量には変化がなかったが、複合体IVは有意に減少していた。次にCRISPR/Cas9を用いてStarD7がKOされたHepa-1細胞を樹立した。KO細胞では細胞内ATPや細胞増殖の低減および複合体IVの不安定化が見られた。KDおよびKO細胞からミトコンドリアを単離後、リン脂質をLC-MS/MSで解析した。その結果、ミトコンドリアのPC量の減少とPE量の増大が見られた。ミトコンドリアの形態を電子顕微鏡で調べたところ、StarD7のKDおよびKOによって内部クリステ構造の消失が見られた。一方、クリステ形成に重要と言われるOpa1の量やプロセシングには変化がなかった。以上から、StarD7はミトコンドリアのリン脂質や機能の恒常性及び形態形成において重要な役割を果たしていると考えられた。
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Biochem. J.
巻: 471 ページ: 369-379
10.1042/BJ20150318