今年度は、昨年度に引き続き、テロリズムに対する自衛権に基づく武力行使に関する事例研究を行うとともに、昨年度のリサーチ結果を前提にして、自衛権概念をテロリストに対処する武力行使に特化して「時間的・主体的位相」という独自の分析枠組みを用いて検討をおこなった。イスラエル、パレスチナ、アフガニスタンやイラクおよび私的集団であるアルカイダが国境を越えてネットワークで活動している地域におけるこれまでのテロリスト(テロリスト集団・組織)に対する武力行使事例を具体的に詳細に取り上げて、領域統治能力欠如の領域国およびそこに所在するテロリストに対する武力行使に伴う必要性・均衡性原則の評価基準を析出し、行使態様規制の機能を担う同原則がjus ad bellumとjus in belloの関係性にいかなる影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。 テロリズムに対処する際の自衛権行使は、本研究の分析枠組みにおける研究から、必須要件である「武力攻撃の発生」要件概念が、時間的にも主体的に拡張されて解釈される明白な国家実行が存在していることが明らかになった。それに伴い、必要性および均衡性要件も柔軟に解釈される傾向が見いだされた。 必要性・均衡性原則については、テロリスト集団がjus in belloを遵守することは期待できないが、jus in belloにおける軍事目標主義概念がjus ad bellum規範の評価要素として移植され、jus ad bellumとjus in belloが相互影響関係を保ちながらjus ad bellumの武力行使抑制規範が機能していることが明らかになった。
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