ユーザの閲覧行動から,そのユーザの感情をセンシングする手法の確立を目指し,本年度は,読者の印象を反映させた書籍表紙画像を表示する書籍探索システムの構築,および,書籍探索システムを用いたシステムとユーザの感情の相互作用について検証した. 検索結果として表示される書籍表紙画像は,出版表紙画像に,視認性を考慮して,書籍レビューから抽出された感情を表現する色彩を適用した画像である.生成した表紙画像の評価では,書籍販売サイトにおける4種類のジャンルから,売上上位にランクインしている計8冊に対し,10代から50代の計400名によるアンケート調査を実施した.すべてのジャンルに対し,レビュー作成者が多いと考えられる年齢層において,出版表紙画像より,本手法により生成された書籍表紙画像の方が,読後感に近いことが確認された. 書籍探索システムの構築にあたり,色味や雰囲気など色彩を直観的に操作できる属性を用意し,多次元属性情報を柔軟に扱うことが可能なリング状検索インタフェースを応用した.リング上の特定の位置にある属性値を検索条件として利用し,リングを組み合わせることによってAND検索を提供する.ユーザはリングを追加・削除・回転させることにより,リング内部に表示された検索結果を閲覧しながら探索を進めることが可能である. システムとユーザの感情の相互作用を検証するにあたり,ユーザは表紙画像から読書後の印象を汲み取りつつ,自身の感情を色彩にすり合わせ,最終的に自身の気分に合った書籍を発見できるか調査した.実験協力者のうち,書籍内容のイメージなど曖昧な情報要求を持つユーザは,希望通りの探索を進め,満足度の高い書籍を選択することができた.一方,特定の著者やジャンルを希望する明確な情報要求を持つユーザは,探索過程において情報要求を自然に変更させるとともに,新たな書籍に出会う機会を与えられたことを確認した.
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