研究課題/領域番号 |
25870710
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
瀬野 晋一郎 杏林大学, 保健学部, 講師 (70439199)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知覚閾値 / 空気噴流 |
研究実績の概要 |
体表部末梢神経障害に対するスクリーニング検査は電極や測定用器具を対象部位へ密に接触させる必要があり、傷害や損傷を患う体表組織への適用に際しては刺激に伴う患者の侵襲と痛みなどの負担も少なくない。これらの点を改善する目的で、本研究では定常流とパルス流の2種類の空気噴流を利用した非接触圧刺激による感覚評価法を考案し、測定システムの開発に取り組んでいる。 平成26年度はシステムの改善および性能に関する基礎実験を実施した。測定に際して、パルス噴流は噴出回数が多くなると、圧縮空気を1回ごとの駆出動作で完全に放出できず、次第に管路内へ残留した。この現象は、知覚閾値算出に必要なパルス流の動圧の計算に大きく影響した。したがって、ノズル管路内に脱気口を作製し、残留空気を外部へ放出する仕組みを構築して、この点を改善した。また、感覚閾値の定量化では負荷刺激量が多すぎると、容易に閾値レベルを過ぎてしまい、測定誤差の要因となる。そこで、試作システムではノズル管路内に速度制御弁を設けて、パルス噴流の流量を調節して負荷量の微小変化を具現化してより正確な閾値を計測できる仕組みとした。 パルス噴流の圧力分布に関する基礎実験としてXYZ軸方向の精密なステージに校正用の圧力センサを取付け、パルス噴流負荷に対する吹き付け距離の変化(垂直方向:Z軸)および空気流の拡散に対する圧力分布(水平方向:XY軸)を詳細に分析した。ノズル先端部の中央部鉛直線上で、垂直方向に1mm~15mm離れた距離の範囲でほぼ一定の動圧(圧迫圧)が得られた。水平方向では直径約2mmの範囲で有効な圧迫が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトは、定常流とパルス流からなる2種類の空気噴流を利用した知覚閾値の測定技術の確立と測定システムを完成させることである。本研究は測定システムの製作に留まらず、体表各部における実測データを取得して本法の有用性や利便性について評価することを計画している。 平成26年度は試作システムの改善や問題点の対策を主に取り組んだ。本システムのパルス噴流はデジタル電空レギュレータで圧縮空気の流量を漸増し、さらに高速電磁弁によるON-OFF制御を利用してパルス状に噴出して具体化している。パルス噴流が次第に高流量となるにつれて、圧縮空気の一部はノズル管路内に貯留してしまい、次のパルス噴流に影響を与えるだけでなく、動圧算出の圧力基準レベル(0Pa)を上昇させることが明らかとなった。この点を解決するために、ノズル管路内に脱気口を設けることで残留空気と圧力レベルの変動に対する影響を軽減した。 本システムはコンプレッサーより供給される圧縮空気を利用した感覚定量評価法であり、負荷刺激に際して空気の温度による影響を否定できないことが昨年度の生体計測から明らかとなった。平成26年度は熱交換器(熱湯)を用いて圧縮空気の温度を体温レベル(約37℃)まで加温することで刺激時に対する温度の影響を軽減することを考案した。加温に必要な熱量や効率的な加温モデルの設計を緻密に計算して熱交換器を試作して実用上の機能を確認した。しかし、予備実験の段階で液層から空気層への水漏れが発生し、この解決に手間取ったため、完全な評価を行う実験には至らなかった。 今年度は、改良型の試作システムを用いて男女20名の被験者を対象に定量的な空気流刺激閾値のデータ収集を行うと同時に、電気刺激に対する知覚閾値も計測して両実測データを比較検討した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では2種類の空気噴流(定常流とパルス流)を皮膚面に負荷刺激して、得られる流量[L/min]および圧力[Pa]の2つの値より知覚閾値を算出する。試作システムは、空気流の温度の影響が大きく、測定条件による知覚閾値のバラツキや再現性などの問題が認められた。平成27年度はシステムの完成と多数の実測データを収集・分析を行い、本法の再現性および有用性に対する課題改善を重点的に掲げて取り組む予定である。 1.本年度、パルス噴流負荷に対する吹き付け距離の変化(垂直方向)および空気流の拡散に対する圧力分布(水平方向)を分析したところ、ノズル先端部から垂直方向1mm~15mmの範囲でほぼ一定の圧力分布が得られた。現在、ノズル先端部から10mm離れた位置から測定対象部に圧負荷して定量評価を行っているが、この結果に基づき測定における最適な負荷距離を基準化したい。 2.被験者の実体験に基づき、空気噴流の温度が本来目的とする2種類の圧負荷に対する識別閾値の妨げになることが明らかであった。この点の改善には熱交換器を利用して体温レベルまで加温した空気流で圧負荷することで温度の影響を最小化できると考えている。平成27年度は引き続き熱交換器の改良を進め、この問題点を解決したい。 3.本法は定常流を知覚した状態からパルス噴流を重畳して負荷刺激し、これらの噴流を分離識別できた時点を知覚閾値として定量評価する。しかし、過去2年間の実測データはバラツキが大きく、また再現性に乏しい結果であった。その要因として、2種類の負荷刺激に対する識別に関して被験者が十分理解できなかった可能性もあるが、測定環境などの他の要因も否定できない。平成27年度は、再度、測定におけるプロトコルを明確化して、評価データの収集に取り組みたい。また、従来の感覚定量評価法の1つである電流知覚閾値と同時計測し、両者の実測データを比較検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は前年度の未使用金で購入できなかったデータ解析用のソフトウェア(オプション)を購入し、前年度に収集したデータ分析に時間を要した。また、実用化できていないが、熱交換器の設計および作製に長時間費やした。さらに、平行して購入したメモリハイコーダとその周辺機器(バッテリー、BNCコード、プリンタ、記録用紙など)を用いて生体計測やシステム性能の基礎実験に取り組み、それらのデータ解析に時間を要した結果、予算執行がわずかに遅れ、最終的に本年度の交付金の一部について年度内に執行することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の未使用金について、測定システム製作に関わる加工材料費に加えて、研究の進行次第ではシステムの一部を外部に発注する可能性も生じるため、次年度(平成27年度)の交付金と合算して申請することを計画している。
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