本研究は体表部末梢神経障害に対するスクリーニング検査として定常流とパルス流の2種類の空気噴流を利用した非接触圧刺激による感覚評価法を考案し、測定システムの開発に取り組んでいる。本法は、電極や測定用器具を対象部位へ密に接触させる必要がなく、刺激に伴う患者の侵襲と痛みなどの負担もないことが従来法との相違点である。 過去2年間の予備実験より、圧縮空気による噴流刺激では触圧覚の他に、冷覚も一部で誘発されることが確認された。空気噴流の冷却効果が本法の知覚閾値に及ぼす影響は不明であるが、平成27年度は冷却対策として熱交換器の製作を試みた。熱交換器は、刺激用圧縮空気を熱湯(約80℃)で体温レベル(約37℃)まで加温し、これを刺激に用いることで冷却による影響を軽減できると考えていた。しかし、試作器では液層内を完全に密封できず、実験の度に空気層内へ熱湯が漏れてしまうため、今年度中に熱交換器を完成させることは断念した。 本年度は生体計測として、ボランティア学生24名を対象に左右の前腕部と中指先端部について空気噴流による知覚閾値を計測した。定常流およびパルス噴流に対する知覚閾値には左右差を認めず、また部位別に詳細な比較を行うと、前腕部に比べて指先の空気噴流に対する感度が低い結果となった。しかし、実測データのばらつきが大きいことなどから更なるデータ蓄積と検証が必要と考えられた。加えて、試作システムは測定データを分析して知覚閾値を算出するため、測定時に発生した単純な計測ミスを判断できない。今後は、リアルタイムに閾値を算出可能なシステムへの改良が課題となる。 以上、本研究に関する過去3年間の基礎実験および得られた閾値データの分析結果について一般社団法人日本生体医工学会主催の生体医工学シンポジウム2015で学会報告を行い、この研究成果は学会誌「生体医工学53巻6号(2015)」に掲載された。
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