研究課題
好気性解糖は癌特有の代謝である。近年pyruvate kinase M2(PKM2)が解糖系維持に重要な制御因子であることが報告され、PKM2活性剤が新たな抗癌作用をもつ薬剤になりうる可能性が示唆されてきた。そこで我々は、PKM2酵素活性を上昇させることで解糖系の使用を抑制し、正常細胞が主として利用するミトコンドリア呼吸側へ代謝変動を誘導することで、癌細胞増殖抑制効果をもつ薬剤を、安全性及び副作用が既に把握されている既存薬の中から見出すことを目標に研究を開始した。ヒト大腸癌細胞株を使用し、より解糖系亢進を誘導する環境下で培養すると、糖消費が進み、培地内の糖が欠乏した結果、細胞が形態変化を起こすことを見出した。この細胞の形態変化を遅延させる薬剤は、癌細胞の糖消費を抑制している可能性が高く、この現象を利用し、当研究室で構築した既存薬ライブラリーを用いて、薬剤のスクリーニングを行った。我々が過去に報告したように(Tamada et al., Cancer Research 2012)、PKM2の活性上昇は、間接的に癌細胞の糖消費抑制を誘導することから、上記方法で選別した糖消費抑制剤の中にはPKM2活性剤が含まれる可能性があると考え、次にPKM2活性および解糖系に与える影響について調査した。実際に糖消費量および好気性解糖の最終産物である乳酸産生量を測定し、共に減少するもの、つまり、解糖系使用を抑制しうる薬剤を更に選別し、併せてPKM2の酵素活性と連動するチロシンリン酸化の評価を行った。その結果、PKM2のチロシンリン酸化を抑制することでその酵素活性を上昇させ、糖消費および解糖系使用を抑制しうる既存薬の候補を見出した。現在、解糖系からミトコンドリア呼吸への代謝変動の評価、癌細胞増殖抑制や抗癌剤感受性増強といった抗癌作用についての評価を進めている。
すべて 2015
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Nitric Oxide
巻: 46 ページ: 102-113
10.1016/j.niox.2014.11.005.