研究課題
大動脈解離患者からの血液検体を収集しMMP9を測定し未破裂大動脈瘤患者、心筋梗塞患者、健常群と比較したところ、大動脈解離群では有意に血中MMP9が上昇していることが確認され、MMP9が大動脈解離のバイオマーカーになりうる可能性が示唆された。さらにヒト大動脈解離患部血管においてはヒト未破裂大動脈瘤患部検体にくらべてMMP9が好中球に一致して有意に発現が上昇していることが免疫染色から示された。次に大動脈解離発症の機序についての検討を動物モデルで行うためにBAPNを幼弱マウスに前投与して大動脈瘤を形成し、そこにアンジオテンシンIIを投与して投与後二時間以内には100%の確率で大動脈解離が惹起されるモデルを確立することに成功した。このモデルにMMP9の酵素活性を選択的に阻害するONO-4817を投与したところ有意に大動脈解離の発症が抑制された。以上より大動脈解離の発症にはMMP9が関与している可能性が示された。また大動脈仮の発症における好中球の寄与を検討するために上述のマウス大動脈解離モデルにGr1抗体を用いて好中球除去処理を行ったところ有意に大動脈解離の発症が抑制された。したがって大動脈解離の発症には好中球由来のMMP9が関与することが示された。次にアンジオテンシンII同様の昇圧効果を持つノルエピネフリンをBAPN投与マウスに与えて大動脈解離の発症率を検討したがノルエピネフリンでは大動脈解離の発症は見られず、アンジオテンシンII投与マウスで見られた患部血管での酸化ストレス上昇も見られなかった。アンジオテンシンIIで刺激した血管平滑筋細胞を好中球を共培養すると、好中球由来のMMP9産生が上昇することが示された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト大動脈解離患者からの検体でMMP9が上昇していることが確認されたことは、当初のMMP9が大動脈解離のバイオマーカーとしての検討という点で実際にMMP9が有用である可能性を示唆する重要な結果である。また大動脈解離発症マウスモデルを用いてMMP9阻害剤により大動脈解離発症の抑制が見られたことはMMP9が大動脈解離発症機序に直接関与することを示唆しており、大動脈解離におけるMMPの関与を検討するという本研究の目的における重要な進展であると評価できる。
今後はMMP9ノックアウトマウスの増産を行い、MMP9ノックアウトマウスでの大動脈解離発症率が抑制されることを確認検討する。さらにヒト大動脈解離検体においても酸化ストレスの測定を行い、マウスモデル同様酸化ストレスが患部検体で増強していることを確認する。マウス大動脈解離モデルに酸化ストレスの阻害剤を投与し、大動脈解離の発症が抑制されることを確認する。またマウス大動脈解離モデルにおいて好中球除去した血管では酸化ストレスが抑制されていることを確認する。MMP9のターゲットとして考えているTGFβが実際に患部血管で発現が上昇しているかどうか、またその下流シグナリングについてウェスタンブロッティングなどで検討する。
今年度使用予定であったマウスの飼育費およびマウス代金、使用薬剤が、マウス飼育室およびMMP9ノックアウトマウスの感染のため繁殖を一時中断せざるをえなかったため、動物実験が一時中断して少なく済んだため次年度使用額が生じた。
マウス大動脈解離モデルに酸化ストレスの阻害剤を投与して大動脈解離の発症率を抑制することができるかどうかの検討を行う。またヒト患部血管でも酸化ストレスが上昇しているかどうかの確認を行う。MMP9ノックアウトマウスの繁殖を行い、数を増やしてMMP9ノックアウトマウスで大動脈解離の発症が抑制されているかどうかの確認を行う。MMP9の標的となっている可能性として考えているTGFβおよびその下流シグナリング因子の発現、活性を患部血管を用いて検討する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Circulation Research
巻: 116(4) ページ: 612-23
10.1161/CIRCRESAHA.116.304918.