本年度は、まず前年度実施した組織の解析結果を精査した。その結果、前年度見い出した腫瘍組織におけるオルニチンデカルボキシラーゼの亢進に加えて、新たに4つの代謝経路においてがん特異的な代謝が存在する可能性が示された。 膵液については、一般的に膵液の保存に用いられているプロテアーゼインヒビターの有無による代謝物プロファイルへの影響について検討したが、大きな差異は認められなかった。従って、保存膵液の使用が可能と判断し、慢性膵炎12例、膵管内乳頭粘液性腺腫11例、膵管内乳頭粘液性腫瘍7例、膵管がん13例の膵液中のイオン性代謝物のメタボローム解析を実施した。 結果、膵液中より約80種のイオン性代謝物を検出することが可能であったが、各代謝物の濃度が個人の違いによって100倍以上異なるケースがあることが判明した。膵液においては、尿におけるクレアチニンのように濃度を補正する物質がないため、これ以上の解析が困難であった。 血清に関しては、健常者96例、膵管内乳頭粘液性腫瘍7例、膵管がん57例のメタボローム解析を実施した。主成分分析によって健常者と膵がん患者のイオン性代謝物のプロファイルは明確に異なることが示され、統計解析によって陽イオン性代謝物14個、陰イオン性代謝物10個、合計24個のマーカー候補代謝物を得ることができた。 尿に関しては、メタボローム解析を実施するための希釈率の検討を行い、前処理法の確立まで完了させたが、検体収集の遅れによって十分な数の検体を集めることができなかった。
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