研究課題/領域番号 |
25870720
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
湊 宣明 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科, 准教授 (30567756)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地域航空システム / 共生型経営管理 / 地域住民投資 / 証券化 / 公共インフラサービス / 統合モデリング / システムダイナミクス / Anylogic |
研究概要 |
本研究は、不採算を理由として縮小傾向にある地域航空ネットワークの持続的経営を目的とし、航空路線証券化の概念を取り入れた共生型経営管理モデルを提案する。地域航空路線から生み出される将来キャッシュフローを証券化し、地域利害関係者による当該証券への投資を促す仕組みを構築することで、公的財政支援に依存しない自律的な地域航空経営を実現する。 平成25年度は、富士山静岡空港を事例として数理評価モデルを構築し、航空路線証券化モデルの成立条件を導出した。加えて、静岡県民を対象とした投資意思に関するアンケート調査、静岡県庁へのインタビュー調査を実施し、提案する共生型経営管理モデルに対する行政側からの要求を抽出し、入手データにより評価モデルのパラメータ設定値を定義した。また、福島県庁を訪問して抽出した要求の妥当性を確認した。静岡-札幌路線を想定したシミュレーションの結果、運航面の経済成立性のみを考慮した場合は証券化による座席利用率の押上効果として2%~5%が適当であるとの知見が得られた。一方、静岡県民による投資の成立性までを考慮すると5%を超える座席利用率の押上効果が要求されるケースもあり、慎重な制度設計が求められることが判明した。 さらに、ソフトウェアAnylogicを用いた統合モデリング手法をシステムダイナミクス学会誌に論文発表し、加えて、英語版しかなかった同ソフトウェアのテキスト『3日で学ぶビジネスシミュレーション-Anylogic入門』を出版した。これにより構築したモデルを用いて利害関係者の要求を統合的に評価することが可能になり、制度として持続可能な経営管理モデルを設計し、検証できるようになった。成果は既に日本経営システム学会、ATRS2013、APISAT2013、APCOSEC2013、IEEE IE 2013等で研究発表し、改良モデルを国際学会ICServe2014で発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は、①ステークホルダー分析、②法的・制度的検討、③ファイナンスモデル構築・検証の3点を計画し、計画通りに実施した。 ①ステークホルダー分析については、富士山静岡空港、静岡県庁、及び福島県庁を訪問し、空港行政実務担当者に直接インタビューを実施することで利害関係者の要求を網羅的に抽出した。また、モデル構築に必要な主要データを入手すると共に、今後の研究に向けた協力関係を構築することができた。 ②法的・制度的検討については、国内外PFI研究者、公共経営研究者と意見交換・共同研究会を開催し、適用可能な資金スキームを体系的に調査を実施した。結果、Impact Investment等の複数オプションの検討へと繋がった。 ③ファイナンスモデル構築と検証については、富士山岡空港における静岡-札幌便(ANA運航)を対象にした数理モデルを作成し、国土交通省航空輸送統計データ及び静岡県民へのアンケート調査結果を入力値として、航空会社の利益率、証券化商品の予想株価等を出力値として導出し、共生型経営管理モデルが財務的に実現可能であることを定量的に確認した。 また、平成26年度に実施予定であった政府-事業-市場の統合モデリング手法についてシステムダイナミクス学会誌に査読論文を発表するともに、モデリングに用いたソフトウェアAnylogicについて、これまで英語のみが存在していたテキストを日本語訳化し、出版した。さらに、一連の研究成果を纏めて日本経営システム学会で発表し、フィードバックを得て評価モデルの精度を向上させた。また、複数の国際学会(ATRS2013、APISAT2013、IEEE IE 2013等)でも研究成果を発表し、研究コミュニティーによる外部審査を積極的に受けた。モデルの改良版は国際学会ICServe2014に投稿済である。以上より、当初の計画以上に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、静岡県庁及び福島県庁等の実務担当者とのFace-to-face議論を制度設計プロセスに組み込み、行政実務者の要求を設計に反映し、制度運用の持続可能性についても配慮している。議論の結果、行政における新たな仕組みの導入においては過去の実績と議会承認が最大の障壁になることを確認し、今後は有力な地方銀行や地域経済団体も交えた議論を進め、提案の支持者を増やすべきとの提案を受けた。今後インタビュー対象範囲を広げつつ、研究ネットワークを確立する。また、地域航空路線の需要変動は一般に高いため、不確実性を考慮した評価を行うとともに、行政が座席利用率を保証する等、地域住民等の投資リスクを低減する仕組みも検討する。 以上を踏まえ、平成26年度は専用ソフトウェアによる本格的なモデル実装と評価に移行する。具体的にはAnyLogicを用いて④コンピュータ支援モデル構築と検証を行った上で、その定量的結果を基に⑤地方自治体との共同検討を再開する。さらに、⑥成果の水平展開を図るため、インフラ整備、公共医療、環境等の分野において住民投資スキームの適用範囲を明らかにする。成果の水平展開にあたっては、スイス連邦工科大学チューリッヒ校との共同研究として実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた国際学会での論文発表を行うために海外出張を計画していたが、当該論文について共同著者に研究発表を依頼することができたため、当該海外出張旅費を国内出張旅費に振り替えた。海外航空券代を支出しなかったことが平成25年度未使用額発生の主な理由である。 フランスで開催される国際航空輸送学会(2014年7月)において研究発表(採択済)を行う計画であるが、同時に本研究の共同研究先であるスイス連邦工科大学チューリッヒ校を訪問し、研究成果の水平展開についてミーティングを行う。この追加滞在に必要な経費として支出する。 また、日本国内で開催される国際学会ICServ2014(2014年9月)に研究発表予定(採択済)であり、学会参加費として支出する。
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