本研究は、地域航空路線の将来キャッシュフローを証券化し、地域の利害関係者による当該証券への投資を促す仕組みとして地域利用者投資スキームの概念検討を実施した。富士山静岡空港を事例として評価モデル(財務評価モデル及び確率推論モデル)を構築し、静岡県在住者を対象とした空港利用及び投資意思に関する調査結果(n=89)からパラメータを推定し、投資スキームの成立性及び予想される効果を定量的に検証した。その結果、投資スキームの導入により地域利用者の空港利用態度が肯定的に変化し、座席利用率の押上効果が発生する可能性が示唆された。一方、運航面の経済成立性と航空会社との持続的な共生関係を実現するためには、投資スキームに求められる座席利用率の押上効果は1.7%~4.9%程度に抑えることが妥当であるとの知見が得られた。また、潜在的投資者としては、空港アクセス時間が2時間以内、かつ、年間空港利用回数が2回程度の層をターゲットとすることが望ましいことが明らかとなった。さらに、投資スキームの成立には潜在的利用者の投資意思率4.35%以上が必要であり、投資スキームの地域への浸透も課題であることが判明した。証券への投資意志率は積極的IR活動によって改善する可能性はあるものの、行政が座席利用率を保証する等、地域住民等の投資リスクを低減する仕組みも検討の余地がある。本研究結果を踏まえて、地方空港を所管する地方自治体へのインタビューを実施した結果、投資スキームを実現するためには、地方議会を説得するため地域に密着した金融機関の関与が望ましいこと、加えて、路線毎にリスクの大きさを評価する仕組み作りが期待されることを確認した。構築した定量評価モデルはパラメータ値を変更することで異なる航空路線、異なる航空会社にも拡張適用が可能であり、公的財政支援に過度に依存しない自律的な地域航空システムの実現に貢献できると考える。
|