研究課題/領域番号 |
25870721
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 准教授 (70388065)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ブラジル / 集団訴訟 / 消費者 / プロコン / アルゼンチン / メキシコ |
研究実績の概要 |
本年度は、ブラジル法を中心に、集団訴訟制度の成立史を解明するとともに、ブラジルの現行制度の問題点と改正案の検討、わが国の消費者裁判手続特例法への影響について研究を行った。現行ブラジル集団訴訟制度の手続面については、わが国でも先行業績が存在し、その基本構造及び実務運用に関する断片的な情報が存在していた。本研究では、実体法部分に焦点を当て、その生成過程から明らかにしたことで、手続面の特殊なルールがより鮮明になったと考えられる。 わが国では、ブラジル法を母法として、消費者裁判手続特例法が制定され、2016年10月より施行されたが、当該特例法については制定当初から様々な問題が指摘されており、制定から5年後の見直しに向けて改良提案が必要とされている。このような状況下で、2016年11月12日に開催した日本ブラジル国際シンポジウムにおいて、ブラジル消費者保護法典の起草担当者及び実務家を含む6名の専門家を招き講演と質疑応答を行うことで、断片的な各種情報をアップデートすることができた。このシンポジウムの成果を元手として、さらに文献調査を重ねることで、手続面に関しても、「判決効の領域的適用範囲」及び「集団訴訟と個別訴訟の関係」に関して新事実が判明した。集団訴訟手続に関連して検察庁やプロコン(わが国の消費生活センターに類似)により行われる「行動調整合意」(ADR類似だが債務名義となる)についても、州ごとに取扱いが異なることも分かった。また、ブラジル法の集団訴訟制度が周囲のスペイン語圏ラテンアメリカ諸国に対して与えた影響についても明らかとなった事柄がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年11月12日に日本ブラジル国際シンポジウムを開催したことで、現地調査類似の成果を達成することができた。その後も招聘講演者との連絡を密にすることで、文献調査のみでは不鮮明なままであった様々な疑問をいち早く解決することができた。このように、現地の研究者の協力を常に得られる状況にあることが、本研究の進展の上で非常に重要である。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、ブラジル集団訴訟制度を参考として、わが国の消費者裁判手続特例法の改正案を提示していく。具体的には、①特例法では原告適格が一部の消費者団体に限定されているが、ブラジルの制度を参考に一定の行政機関(国民生活センター、消費生活センター、都道府県、消費者庁など)にそれを広げて、公私協働による集団訴訟制度とすること、②行政機関では消費者庁による行政処分に加えて、国民生活センターや消費生活センターですでにADRによる紛争解決を取り入れているが、ブラジルの「行動調整合意」という制度を参考に、法的強制力を伴う合意に基づく紛争解決法を取り入れること、③ブラジルの特別基金制度に倣い、消費者基金を作ること、④保護対象範囲を拡大すべきことなどを提案していきたい。 第二に、ブラジル集団訴訟制度の影響を受けて、立法や判例法により自国の集団訴訟制度を整備したメキシコ及びアルゼンチンを参考に相対的比較を行うことで、わが国に導入可能かつ実現可能な制度を選別し提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたデジタルカメラを購入する必要がなくなり、物品費の支出が抑えられた。2016年度の本科研費からの支出は少額にとどまったが、本研究遂行に支障は生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
ブラジル、アルゼンチン、メキシコの関係図書の購入や複写といった物品費、及び、海外調査のために必要な物品の購入のために使用する。
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