最終年度は、本研究の完成年度として、消費者の集団的保護に関する研究に取り組み、海外専門誌にて二点の論文を公表した。一点目はブラジルの消費者法雑誌で、ブラジル法を母法として制定されたわが国の消費者裁判手続特例法と、母法ブラジル法との異同に焦点を当て論じたものである。二点目はアルゼンチンの公共利益雑誌で、わが国の集団訴訟制度の歴史的経緯と現行法制について論じ、諸外国法との比較を行ったものである。また国内専門誌でも、ブラジルの集団訴訟制度史を1965年民衆訴訟法、1985年公共民事訴訟法、1988年連邦憲法、1990年消費者保護法典と法典編纂の歴史を追って、この間の学説の議論とあわせて詳細に検討した。1990年消費者保護法典以降、現在までのさらなる判例・学説の進展、ならびに、判決効の制限に関する特別法の制定を論じ、これに対する学説からの批判、2015年新民時訴訟法典制定後の最新動向についても検証を行った。また、最終年度のもう一つの成果として、ブラジルの簡易裁判所制度と消費者被害の救済について調査と研究を行い、論文を公表した。ブラジルの消費者被害救済制度といえば消費者集団訴訟がわが国では盛んに論じられてきたが、ブラジルには、個別型・集団型、交渉型・強制(訴訟)型の様々な救済チャンネルが整備されている。差止請求であればともかく、損害賠償請求の事例では、集団訴訟が必ずしも効率的な救済方法とはいえないであろう。ブラジル現地調査として、ポルトアレグレ市とサンパウロ市にて簡易裁判所および行政型ADR機関のセジュスキを訪問し聞き取り調査を踏まえて検討したところによれば、個別消費者事件が最も多く係属するのが簡易裁判所であった。今後の研究の展開として、特に多かった慰謝料請求事案について具体的に検討することが課題となる。
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