研究課題
エジプトの国民国家形成期(19世紀末から20世紀前半)における、コプト・キリスト教徒のナショナル・アイデンティティ形成過程を明らかにした。当初、事例は4例(コプト語復興運動、ナイルーズ祭復興運動、コプト博物館の設立、ウンマ・コプティーヤ運動)を予定していたが、第4の事例は1950年代とやや時期が遅く、議論を国民国家形成期に限定するために、最初の3事例に絞って研究を進めた。その結果、エジプトのコプト・キリスト教徒の国民統合に関しては、これまでリベラルなナショナリズム(宗教を問わずエジプトという祖国に忠誠を誓う者をエジプト人とする)が注目されてきたが、コプト共同体内部からは宗教的アイデンティティに基づいたエジプト民族意識が呼びかけられており、リベラルなナショナリズムとは異なるコプトの文化ナショナリズムが存在していたことが判明した。そしてそれらは上記のようなコプト語復興、ナイルーズ祭(コプト暦元日祭)復興、コプト博物館の設立などの動きとして現れた。また、これらの運動がコプトの俗人信徒によって率いられたことも重要な点であり、これらの運動にはコプト共同体独自の宗教的な象徴が使用されているにもかかわらず、それが「エジプト民族」の象徴に変換されて脱宗教化されていることが明らかになった。また、そうした形でコプトのエジプト民族意識が構築されたのは、「世俗的な国民国家」という新たな国家体制の枠組みの中で、コプトが自らの宗教的アイデンティティを手放すことなくエジプト国民/民族としての意識を持つためであったことが明らかになった。
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中東・イスラーム研究概説―政治学・経済学・社会学・地域研究のテーマと理論
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