研究課題/領域番号 |
25870739
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
阿南 弥寿美 昭和薬科大学, 薬学部, 講師 (40403860)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | セレン / 水銀 / ICP-MS |
研究概要 |
必須微量元素の1つであるセレンは、生体内で様々なセレン酵素に利用される他、水銀など毒性重金属の解毒作用や、抗酸化能などの生理作用をもつ。本研究では海棲生物の主要なセレン化学形であるセレノネインに着目し、代謝経路や生物学的利用能、生理作用、特に水銀解毒への関与を検証することを目的としている。 初年度は、セレノネインを高濃度に含有する海産魚からセレノネインを抽出・精製し、in vitroアッセイにより無機水銀との反応性を評価した。輸液などに利用される無機セレン化合物の亜セレン酸を比較として用い、高速液体クロマトグラフィー/誘導結合プラズマ質量分析計(HPLC-ICP-MS)により反応生成物を解析した。その結果、亜セレン酸は無機水銀と複合体を形成したが、一方セレノネインは無機水銀と直接的な反応性が低いことが示唆された。 次に、これまで海産魚類やウミガメ類で存在が報告されてきたセレノネインが、他の生物でも見出されるか、数種の野生海棲哺乳類、食用として流通する家禽類、および実験動物として飼育されたウズラについて、肝臓中のセレン化合物をHPLC-ICP-MSおよびエレクトロスプレー質量分析計(ESI-MS)を用い解析した。その結果、海棲哺乳類の肝臓においてセレノネインが検出され、海洋生物に広く存在することが示された。興味深いことに、実験動物として飼育されたウズラの肝臓においてもセレノネインが検出された。また、ウズラに無機水銀を投与すると、肝臓中のセレノネイン量が減少した。これらのことから、セレノネインは無機水銀と直接的な反応はしないものの、間接的に水銀の解毒に関与することが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は化学合成したセレノネインを動物実験に使用する計画であったが、セレノネインの化学合成経路の確立が困難であったことから、実験に用いるセレノネインを海産魚類から分離・精製する方針に変更した。海産魚類から得られるセレノネインは収量に限りがあるため、動物実験に先立ち、in vitroアッセイや培養細胞を用いた実験を実施した。In vitroアッセイにおいて、セレノネインと水銀が直接的には反応しないことが示された。また、培養細胞におけるセレン代謝経路には不明な点が多いことから、その基礎情報を収集するためにヒト肝癌由来細胞HepG2に亜セレン酸を曝露し、代謝物の解析および同定を行った。これらの実験で得られた結果は、実験動物または培養細胞を用いた解析の条件を検討するための重要な情報となった。さらに、2年目に計画していた多種の動物におけるセレン代謝物のスクリーニングを実施し、実験動物であるウズラにおいてセレノネインが検出されることを見出した。このことより、セレノネインと水銀の相互作用を解明するためのモデル動物としてウズラが適している可能性が示された。以上より、当初の計画から変更された部分もあるが、研究全体としては概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果より、水銀解毒に対するセレノネインの関与を解明するためのモデル動物として、内在的にセレノネインが存在するウズラが適している可能性が示された。そこで本年度はウズラに水銀化合物(無機水銀)を投与し、水銀およびセレンの体内動態を解析する。併せて、毒性影響評価するため、血液生化学パラメータや脂質過酸化、セレンタンパク質の一つであるグルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素活性を測定し、毒性影響評価に取り組む。また、初年度に引き続き培養細胞を用いた解析も継続する。セレンによる水銀解毒機序として複合体形成の可能性が挙げられるが、HPLC-ICP-MSによる分析結果から何らかの複合体が検出された場合は、その化学形態の同定に挑む。昨年度末には、生体内のセレン代謝物や水銀-セレン複合体の同定において有用なツールとなる四重極飛行時間型質量分析装置(Q-TOF-MS)が大学に導入された。これにより、これまで検出および同定が困難であった代謝物の解析が可能となり、さらなる研究の進捗が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度にはセレノネインを化学合成し、それを動物実験に用いる計画であったが、セレノネインの化学合成方法を確立できなかった。そのため海産魚類から抽出・精製したセレノネインを実験に用いたが、動物実験に用いる十分量の確保は難しかった。そこで実験動物を用いた研究計画を変更し、in vitroおよび培養細胞を用いて実験を行った。初年度には動物実験に係る予算を計上していたが、それらが差額となった。 初年度の研究成果より、セレノネインを内在的に有するウズラを実験動物として用いる計画が立案された。この動物実験の実施に昨年度の差額分を充てる予定である。従って、期間内の経費執行に問題はない。
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