金属錯体・有機分子・酸化グラフェンを交互積層法を用いて、pKa勾配を持つプロトン伝導に適した構造体の作製を目標に研究を進めた。金属錯体の中心金属には安定なレドックス活性を示すルテニウムを選択した。研究を進めるに当たり、まず炭素材料に吸着可能なルテニウム錯体を合成した。ルテニウム錯体には炭素材料に吸着可能なアンカー基としてπ-π相互作用によって吸着するピレンを導入し、さらにピレンアンカー基の数を変化させ、より強固に炭素材料への吸着を可能にした。ルテニウム錯体には1、2、4,8本のピレンアンカー基を導入し、HOPGやグラフェンへの吸着挙動を電気化学によって評価した。合成した多脚ルテニウム錯体の1H NMRやマススペクトルを測定し、同定を行った。HOPG電極表面での電気化学測定の結果からピレンアンカー基の数を増加させるに従い、炭素材料に強く吸着することが明らかとなった。また、8脚のピレンアンカー基を有するルテニウム錯体においては基板表面で多層膜を作製することが明らかとなった。次に炭素材料の種類をHOPGや直径の異なる単層もしくは多層カーボンナノチューブと変化させた場合の錯体から炭素材料への電子移動速度を評価した。平面のHOPGや湾曲の少ない直系の大きな多層カーボンナノチューブにおいて、錯体からの電子の移動速度が早くなることが明らかとなった。 これらの結果をまとめると、炭素材料、特にHOPG、グラフェン、カーボンナノチューブに吸着可能なルテニウム錯体の分子設計の指針を得ることが出来た。今後はプロトン応答性を示すルテニウム錯体にピレンアンカー基を導入し、炭素材料表面におけるプロトン伝導性の評価を行いたいと考えている。
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