研究課題/領域番号 |
25870750
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
諏佐 崇生 帝京大学, 医学部, 助教 (20445852)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | LNCaP / AR / PTHrP |
研究実績の概要 |
本年度は、前立腺癌細胞でのアンドロゲン受容体(AR)によるステロイドホルモン依存的な転写抑制機序の解明をPTHrP遺伝子を中心に解析を進めた。主に、ヒト前立腺癌より樹立された培養細胞株であるLNCaP細胞を実験に使用した。アンドロゲン依存的に増殖するLNCaPは、核内受容体の中でもARを高発現しているが、このARにはThr-Ala877の変異がリガンド結合領域内に存在し、この変異がリガンド特異性を緩めることでエストロゲンのE2やプロゲステロンのアゴニストであるR5020がAR(Thr-Ala877)に交差することが知られていた。この知見は、本研究の先行研究結果である、乳癌培養細胞であるMCF7細胞においてエストロゲン受容体(ERα)が本来のリガンドであるE2以外にもアンドロゲンをリガンドとして認識するというクロストークと鏡像関係にある。そこで本研究では、LNCaP細胞でのE2やR5020 によるAR(Thr-Ala877)へのクロストークが、変異に依存したクロストークなのかどうかを詳細に検討することにした。 実験は種々の核内受容体の発現をsiRNAによりノックダウンし、ステロイドホルモンを細胞に投与した後にその標的遺伝子の発現変動をRealtime-PCR、免疫細胞化学、ウェスタンブロッティング、マイクロアレイなどの手法で行った。また、野生型ARとAR(Thr-Ala877)のリガンド特異性の比較検討をするために、これらの発現ベクター、もしくはGFP融合型発現ベクターと、AR応答領域を含んだルシフェラーゼベクターを構築し、ルシフェラーゼアッセイや細胞内局在解析でのARのリガンド応答実験を行った。 その結果、LNCaP細胞だけでなく、その他の複数のステロイドホルモン感受性の癌細胞株において、E2は変異が無い野生型のARに応答し、ARの標的遺伝子群が制御されることが示された。本結果は、そこにまだ未明のE2-ARのシグナル伝達機構が存在することを示すものである(J Cell Physiol. 2015 Jul;230(7):1594-606.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はLNCaP細胞において変異に依存せずともE2が野生型ARを介して転写制御を行うという新規知見を得ることができ、国際誌への投稿論文で発表することができた点は、研究が進んでいると評価できる(J Cell Physiol. 2015 Jul;230(7):1594-606.)。しかし、当初の目的であった、ステロイドホルモンによるPTHrPの転写抑制機構の解明を順調に進めることができなかった。 乳癌細胞株のMCF7や前立腺癌細胞株のLNCaPなどで共通してPTHrPはE2やDHT処理によって抑制されることを明らかにし、その制御領域をレポーターベクターを用いて解析を進めた。その結果、MCF7細胞においてE2-ER応答候補領域を同定することはできたが、その結果は転写抑制でなく、逆の転写促進に作用してしまった。これはおそらくレポーターベクターにクローニングした制御領域内にER結合領域は含まれているが、野生型でなく部分的に組み替えた人工的な制御領域となってしまったため、本来の制御機構がレポーターベクターで再現されなかったのではないかと予想できた。またMCF7で同定したPTHrPのERによる応答候補領域は、LNCaP細胞でのARによる応答領域ではないことも明らかになり、細胞種、もしくは機能する核内受容体によってPTHrPの転写抑制機が異なることは推測できた。
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今後の研究の推進方策 |
PTHrPのERやARによる制御領域の同定を、レポーターアッセイだけでなく、ChIPアッセイや、TALEN、CRISPR/Cas9などの実験手法を用いて明確に示すことが必要である。また、マイクロアレイ解析の結果、LNCaP細胞においてARを介して種々のステロイドホルモンに応答して発現が抑制される遺伝子群をPTHrP以外で多く同定することができた。これらの遺伝子に着目することで、新たな研究の展開が望めるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で得られた研究成果を国際誌に投稿論文として投稿していたところ、2014年度年末に受理された(J Cell Physiol. 2015 Jul;230(7):1594-606.)。 受理された研究成果を国内学会に発表するため、2015年度に開催される学会への参加を検討している。 そのため、来年度への学会参加費に未使用額を充てたい。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究で得られた研究成果を次年度開催される国内学会で発表したいため、その学会参加費等に未使用額を使用する。
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