平成26年度までに、前立腺癌細胞でのアンドロゲン受容体(AR)によるステロイドホルモン依存的な転写抑制機序の解明をPTHrP遺伝子を中心に解析を進めたところ、ARとステロイドホルモンによる未明のシグナル伝達機構が存在することを見出していた。主に、ヒト前立腺癌より樹立された培養細胞株であるLNCaP細胞を使用した研究となった。アンドロゲン依存的に増殖するLNCaP細胞は、核内受容体の中でもARを高発現しているが、このARにはThr-Ala877の変異がリガンド結合領域内に存在し、この変異がエストロゲンであるE2やプロゲステロンにも交差することが知られていた。しかし詳細な検討から、LNCaP細胞だけでなく、その他の複数のステロイドホルモン感受性の癌細胞株において、E2は変異が無い野生型のARに応答し、ARの標的遺伝子群が制御されることが示された。本結果は、ステロイドホルモン感受性の癌細胞において、まだ未明のE2-ARのシグナル伝達機構が存在することを示すものであった(J Cell Physiol. 2015 Jul;230(7):1594-606.)。 本年度では、これらの平成26年度までの本研究課題で明らかにした知見を、BMB2015(第39回日本分子生物学会年会と第89回日本生化学会大会の合同学会)にて発表した。またこの発表では、前年度までの研究をより発展させ、LNCaP細胞におけるARとビタミンD3の交差応答に関する研究成果も併せて発表した。
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