研究課題/領域番号 |
25870754
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
原 央子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40528452)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 前頭側頭変性症 / モデルマウス / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
神経変性疾患においてニューロン変性やニューロン死を引き起こす因子の1つとして考えられている細胞内凝集体に着目して研究を進めている。凝集体はニューロン変性や死を誘発しているのだろうか、それとも回避しているのだろうか。細胞内凝集体形成過程からニューロン死までのイベントを可視化することにより、凝集体形成と細胞死との関係を調べていく計画である。具体的には筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTLD)のモデルマウス(変異型TDP-43ノックインマウス)を材料とし、「ALSモデルマウス病態変化過程の1細胞イメージングから行う細胞死の解明」と位置付け、凝集体形成と神経細胞死との時間軸の解明を目指している。 本年度の研究では[課題3]として、TDP-43凝集体追跡プローブ作製と、作製したプローブを用いてニューロン死のメカニズムを調べる実験を中心に行った。HeLa細胞に作成したプローブを発現させたところ、凝集体形成効率がTDP-43のアミノ酸変異の種類により異なる結果が得られた。5種類の変異型と野生型を比較して、そのうち2種類の変異型で細胞質に多くの凝集体形成を認めることがわかった。これにより、TDP-43に挿入されたアミノ酸変異の種類によりニューロン変性の程度が異なるだろうと予想できた。 また、来年度以降にin vivo 実験の結果との相関を調べる[課題2]を円滑に進めていけるよう、ALS, FTLDモデルマウスの組織染色を引き続き行った。脊髄組織切片を抗ChAT抗体により染色したところ、モデルマウスでは有意に脊髄前角の大型ニューロン数が減少している結果を得た。このことより、TDP-43にアミノ酸変異が挿入されると野生型マウスより早期にニューロン変性が起こることがわかった。今後、この組織染色の結果と1細胞イメージングの結果との相関を評価していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画において本研究で作製したプローブを用いた1細胞イメージングを8時間、 24時間、48時間のタイムポイントで行ったところ、変異型TDP-43の発現が開始されてから凝集体形成が多く行われる時期が24時間前後ということがわかった。このことは、今後タイムラプスで凝集体を追跡するために有用な結果である。この結果をもとに、変異型(もしくは)TDP-43のN末端とC末端のタイムラプスイメージングを行い、凝集体形成の詳細を調べていくことができる。タイムポイントのイメージングでは、細胞質に蓄積する凝集体がC末端のみを含みN末端を含まないことを明らかにできた。これを生きた細胞で観察することができたのは、本研究で作製したTDP-43の断片化を可視化するプローブがあったからこそである。そして、変異型TDP-43のプローブを発現させたHeLa細胞での細胞死も観察できている。 ALSモデルマウスの脊髄運動ニューロンの培養デッシュで、細胞内TDP-43凝集とニューロン変性、ニューロン死を再現を今年度試みたが、野生型と比較してモデルマウスでは培養に成功したニューロン数が少ない傾向があったものの、凝集体やニューロン変性の可視化にはまだ成功していない。ニューロン死のその時を捉えられていないのが現状である。そこで、ニューロンと同時にアストロサイトの培養も行った。これは、アストロサイトからの接着シグナルや栄養因子によるニューロン変性の可能性や、アストロサイト自体の変性や死が起こったためにニューロンを支持できなくなってニューロン死が起こる等の可能性も調べるためである。 本研究はおおむね計画通りに進展してはいるものの、今後はやはり変異型TDP-43の影響で起こるニューロン死の確たる証拠を可視化し、それを研究進展の大きなステップとして前進したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、ALS,FTLDモデルマウスから採取・培養したアストロサイトがニューロンに与える影響について考慮してニューロン培養を行うべきという考えに至った。ニューロンが多数の培養でニューロン変性や死を認められないため、アストロサイトがニューロンより先行して変化をしていてその影響を受けて環境変化に弱いニューロンのみに変性が起こるために神経変性疾患が誘発されるとも考えられた。今後は、TDP-43の断片や凝集体が細胞間を移動する伝播仮説や変異型TDP-43が鋳型として隣接する細胞に影響するシード依存的細胞内凝集体形成説などを参考にして、アストロサイトとニューロンの培養デッシュ内での比を検討し、より生体内に近い状況を再現して行うことにする。具体的には、ALS, FTLDモデルマウスからアストロサイトのみの培養皿を作製し、ニューロン培養開始時に混合させたり、またはfeeder 細胞として培養したりすることにより、変異型TDP-43が全身に発現する場合の(ALS,FTLDモデルマウスの)ニューロン死を培養条件において調べていく。ニューロンとアストロサイトの混合培養では、伝播仮説やシード仮説による影響を再現でき、アストロサイトをfeeder として用いる方法ではアストロサイトからニューロンへ放出される液性因子の影響を調べることができる。 in vivo 実験の結果との相関を調べる[課題2]を円滑に進めていけるように、最終年度へ向けて初年度より組織切片の解析を進めている。次年度が最終年度のため、今までの1細胞イメージングとALS, FTLDモデルマウスとの相関を示すことが目標である。今年度前半には、脳切片の神経細胞を定量評価して前頭葉と運動野の神経変性度合いを調べ、後半には研究期間中に得られた結果を総合評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が進展し、必要物品の種類や数などが把握しやすくなってきたこともあり、今までよりも効率よく必要試薬の購入ができるようになった。試薬購入の際には数か月先まで必要な量を購入したり、キャンペーン期間中に先行購入したりしたこともあり、本年度使用予定だった研究資金を次年度に繰り越すことができた。消費税増額で研究資金の不足を予想していたが、購入方法の工夫で不足せず研究期間を過ごすことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も今年度同様に試薬購入の際には工夫をして無駄な出費を抑えていく予定である。今年度からの持越しと次年度工夫により生じた研究資金を、培養用試薬、遺伝工学用試薬、抗体、顕微鏡部品費用として使用する予定である。
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