末梢感覚神経切断や脊髄損傷により上行性感覚経路が遮断されると、しばしば幻肢痛等中枢性疼痛が生じる。このような中枢性疼痛の神経基盤として視床回路再編に伴う求心性情報の混線が示唆されており、その回路再編および疼痛行動発達に関わる分子機構の解明が望まれている。本研究でそれが達成されれば、中枢性疼痛治療法開発の端緒となる可能性がある。我々はこれまでに、三叉神経第二枝切断により、マウス視床中継細胞が多数の新規求心性線維投射を受けるようになること(内側毛帯線維再編)、さらに同時期に近隣下顎領域(三枝領域)に感覚異常が生じることを明らかにしてきた(疼痛行動)。また再編回路には、通常存在しないGluA2受容体が出現することを認めている。そこで本研究では、まず内側毛帯線維を領域特異的に可視化し、次に内側毛帯線維再編とin vivoにおける視床神経活動、および疼痛行動との相関関係を検討し、さらに視床GluA2受容体が、回路再編および疼痛行動と発達に関与するか検討することを目的とする。平成27年度の研究実績概要は以下の通りである。 1.三叉神経第二枝切断後、可視化した内側毛帯線維再編、視床神経細胞の受容野変化、および疼痛行動を、長期間追跡したところ、これらはすべて3ヶ月以上持続していた。 2.二ヶ月齢の成獣マウスにおける三叉神経第二枝切断を検討したところ、内側毛帯線維再編、視床神経細胞の受容野変化、および疼痛行動は、幼若期(21日齢)における切断時と同様に発現した。 3.視床中継細胞で特異的にGluA2受容体をノックアウトしたマウス(GluA2-cKO)において、三叉神経第二枝切断して、内側毛帯線維再編を検討したところ、再編が生じない傾向を認めた。 今後当該GluA2-cKOマウスを用いて、視床回路再編、視床受容野変化、および疼痛行動の発現・維持メカニズムの検討を、さらに展開する予定である。
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