多くの動物は外界の光環境から、少数の異なる分光感度(波長特異性)を持つ光受容細胞の活動の組み合わせにより、色世界を見ることができる。しかし、中枢神経系における色覚生成の神経情報処理機構はよくわかっていない。本研究では、視覚情報処理経路において、ヒトとも多くの機能構造的共通性を持つショウジョウバエを用い、色覚情報処理中枢の神経群を対象に電気生理学的手法の確立を目指した。そして、色覚経路の2次、3次神経細胞から分光感度を計測することにより、中枢神経系における色覚情報処理機構を明らかにすることを目的とした。 2013年度は、ショウジョウバエの可視範囲において、光の波長および強度を短波長から長波長まで一定間隔で変化させた刺激を与えることができる光刺激装置の構築と、実際にショウジョウバエの網膜から網膜電図を計測し、光刺激装置からの刺激について評価を行った。また、ショウジョウバエの色識別能を評価するための、報酬学習を利用した行動実験系を確立した。 2014年度は、実際にin vivoで、ショウジョウバエの視覚中枢の神経からホールセルパッチクランプ法により分光感度の計測を行った。いくつかの神経群において、光刺激に対する神経応答の計測に成功したが、波長特異的な応答を示す神経群の同定には至らなかった。また、安定的な計測の障害となるいくつかの技術的な問題が明確になった。今後、それらの問題を解決し、波長特異性や色対比性の応答を示す神経群の探索と同定を進める。さらに、それらの神経群を遺伝学的に操作し、色識別能に与える影響について行動実験で検証する。
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