研究課題/領域番号 |
25870769
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
青木 元秀 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (30418917)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境モニタリング / リピドミクス / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
環境中で有害物質による汚染が疑われた場合、原因となる物質の同定や定量が必要となる。疑われる汚染物質が膨大な数に及ぶとき、その特定に多くの時間と労力がかかることから、汚染原因物質を迅速に推定する手段の開発が望まれている。生物は光や温度、化学物質など様々なストレスに対して異なる応答をすることが知られている。ストレスごとの応答の違いを利用することにより、汚染原因物質を推定できると考えられる。水圏生態系における一次生産者である微細藻類は生育環境に敏感に応答して、脂質やタンパク質などの生体物質組成が変化すると報告されている。本年は、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、有害物質に曝された微細藻類の脂質組成プロファイルを蓄積し、バイオマーカー候補のデーターベース構築に着手した。また、脂質分析にあたり、サンプル量が限られる場合、微量サンプルから高感度に分析する必要があることから、生体膜脂質をさらに高感度分析する条件について検討した。ラン藻から抽出した全脂質をLC-MS/MSで一斉分析すると、PositiveでMGDG、DGDG、SQDGが、NegativeでSQDG、PGが主に検出できる。このときPositive検出では、同一の脂質分子種よりNa+、K+、NH4+が付加した複数の分子関連イオンが検出された。脂質分子関連イオンを感度よく検出するため、また後の解析を単純化するために付加するカチオンをコントロールする必要がある。そこで、脂質分子種をPositive検出する時のイオンソースにおける脱溶媒温度、移動相のpHがカチオン付加に及ぼす影響について検討した。その結果、脱溶媒温度及び移動相のpHを最適化し、最もNH4+付加イオンが強く検出する分析条件を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、環境資料中の有害物質をリピドミクス技術を応用して同定・検出する技術開発を達成するために、1)環境指標生物のリピドミクス技術による生体物質プロファイリング法の確立、2)有害物質への応答プロファイルの収集、3)環境評価バイオマーカーを利用した有害物質同定データベースの構築、4)環境試料中の有害物質の検出・同定能力の評価の4つのステップを設けて研究の区切りの成果報告事項(マイルストーン)を設定している。平成26年度は当初計画の、ステップ2)およびステップ3)にあたる、環境指標生物の有害物質への応答プロファイルの収集を行い、さらに有害物質同定バイオマーカーデータベースの構築に着手した。また、脂質プロファイリング法におけるMSイオン化条件にポストカラム塩類添加法を適用し、更なる高感度分析条件を見いだしている。有害物質同定バイオマーカーデータベースはまだ情報の蓄積が不足しており、更に多くの有害物質に対応した脂質プロファイルを収集する必要性が認められるものの、研究はおおむね計画通りに順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
環境資料中の有害物質をリピドミクス技術を応用して同定・検出する技術開発を達成するために、研究計画の最終年度となる平成27年度は、情報の蓄積が不十分な有害物質同定脂質バイオマーカーデータベースの更なる拡充を図ると共に、環境指標バイオマーカーデーターベースに対して分類統計処理を行い、化合物同定決定木を開発を行う。決定木分析は統計処理ソフトを用いて実施する。さらに、開発された決定木に対して、模擬環境試料を用いて有害物質の検出・同定能力の評価する。また、必要に応じてバイオマーカーの再選抜や決定木分析アルゴリズムを最適化して能力向上を図り、リピドミクス技術を環境中の有害物質を一斉かつ迅速に検出するバイオアッセイ手段として発展させる予定である。得られた研究成果は、必要に応じて学術雑誌・学会等を活用して公表することを計画している。
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