本研究は、申請者の提案する結晶学的自己組織化という新しいコンセプトを用いて、高耐久パラジウム(Pd)薄膜型水素センサの実現を目指す取り組みである。具体的には、配向性窒化アルミニウム(AlN)薄膜を下地層とすることで、Pd薄膜の自己組織化を誘起し、水素センサの高耐久化を図るというものである。研究期間は3年間であり、1年目はPd/AlN多層薄膜作製装置の組み上げを、2年目はPd/AlN多層薄膜作製条件の最適化、および、水素センサ特性評価システムの構築を実施してきた。そして、3年目の本年は、最終年度であることを踏まえ、様々な層構造・膜厚のPd/AlN多層薄膜を作製し、その水素センサ特性、および、水素化過程を系統的に調査した。 その結果、室温で可逆的に動作するPd薄膜型水素センサの作製に成功した。更に、水素化過程のその場X線回折測定(水素in-situ XRD測定)により、可逆的に動作するメカニズムについても解明することが出来た。そして、良好な水素センサ特性を得るための要件は次の4つ:1.Pd薄膜は極めて薄い(膜厚10 nm以下)こと、2.Pd薄膜は連続膜となっていること(島状成長していないこと)、3.Pd薄膜は配向していること、4.Pd薄膜は下地層・基板と強固に接着していること であると判明した。本研究では、配向性AlN薄膜を用いることにより、これら要件を同時に実現できていた。そして、これら要件が相補的に作用することにより、水素化物(いわゆるβ相)の形成が抑制され、その結果、室温で可逆的に動作する水素センサを実現できたものと考えられる。この他、極薄膜の配向度合を、X線回折プロファイルから定量的に解析するための手法についても研究を行った。
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