研究課題/領域番号 |
25870777
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
深瀬 有希子 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (20445696)
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研究期間 (年度) |
2014-02-01 – 2017-03-31
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キーワード | アメリカ黒人文化 / ニューディール政策 / アメリカ黒人文学 / 美術 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
本研究は1930年代から40年代にローズヴェルト政権下で設置された「公共事業促進局」による、「連邦作家計画」及び「連邦美術計画」に参加したアメリカ黒人作家芸術家の国家観、民族意識を分析する。大恐慌から経済的社会的に再生するための精神的基盤として、政府は「普通の人が作る民衆のためのアメリカ」という理念を掲げた。本研究ではその理念が、フロリダ州、ニューヨーク州、イリノイ州にて、黒人作家芸術家によりいかに具現化され、或いは彼ら独自の形に修正改変されたかを、文学、絵画、写真の複数分野から立体的に示す。平成26年度は、「連邦芸術計画」の指示の下に制作された「Depression Murals」に焦点を置いた。公的空間に描かれる壁画は政府が掲げる「民衆のためのアメリカ」像を、一般に知らしめる最適な媒体であった。本研究ではその一例として、ハーレムYMCAやニューヨーク公共図書館ショーンバーグコレクションに保存されるアーロン・ダグラスの作品The Evolution of Negro Dance (1933) Aspects of Negro Life (1934)に注目し、制作された当時の状況や今日に至る保存状況を調査した。最大の収穫は、ハーレム・ホスピタル・センターに保管される1930年代壁画群の最新情報を得たことである。2012年の壁画再生プロジェクト関係者より、1930年代黒人壁画家の活動や、現地でのみ入手可能な一次資料を紹介頂いた。現地調査で得た一次資料を中心に、1930年代ハーレムで活動した黒人芸術家たちの交流、北部と南部でのニューディール文化政策の執行手順の違い、さらにはニューディール政策が共産主義思想とそれに基づく芸術表現活動を規制するなかで上記壁画が制作された状況を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画予定していた一次資料の現地調査、壁画再生プロジェクト関係者との面会による意見交換、さらに本研究についての成果発表のすべてを完了した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、黒人文学文化と政治経済との関係をめぐって、ゾラ・ニール・ハーストンと異なる立場をとったと考えられてきた、シカゴ出身のリチャード・ライトの作品と、ライトと同様にシカゴの「公共事業促進局」に雇用され、シカゴ黒人文壇とも親交があった黒人芸術家チャールズ・ホワイトによる壁画を分析する。本年注目するのは、ライトの12 MillionBlack Voice(1941)である。この作品の特徴は、ライトによって書かれた文章と、Farm Security Administration(農村安定局)に属し後にアメリカを代表する芸術家とみなされるようになった写真家によって撮られた黒人共同体の写真とが、一冊の本の中で並置されている点である。いうなればこのライトの作品は、「連邦作家計画」と「農村安定局」との成果が「統一された」(これこそニューディール政策の「アメリカ像」である)作品である。ここでさらに興味深いのは、抗議小説としての黒人文学の意義を唱えてきたライトの作品に、白人写真家が映した黒人共同体の写真が採用されている点である。すなわち、白人芸術家による芸術的かつ政治的「フィルター」を通して映し出された黒人共同体像は、はたしてそれまでライトが描いてきた黒人共同体像といかに「一体化」しえるのかという問いが提起される。本年はワシントンDCに出張し、このライトの作品に収められた「農村安定局」の写真が所蔵される議会図書館及び、チャールズ・ホワイトの壁画が保存される同地の黒人大学ハワード大学で資料収集を行う。さらに、一年目で中心的に研究したアーロン・ダグラスの壁画および一次資料もハワード大学にて収集調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に必要な二次資料(書籍)は、一冊約3000円以上するので、残額の2244円では購入が不可能だった。
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次年度使用額の使用計画 |
残額2244円は次年度へ繰り越し、物品として二次資料(書籍)を購入する予定である。
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