研究課題/領域番号 |
25870777
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
深瀬 有希子 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (20445696)
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研究期間 (年度) |
2014-02-01 – 2017-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ人 / ニューディール政策 / 壁画 / エステバニコ |
研究実績の概要 |
平成27年度は、シカゴ出身のリチャード・ライトの作品と、ライトと同様にシカゴの「公共事業促進局」に雇用され、シカゴ黒人文壇とも親交があった黒人芸術家チャールズ・ホワイトによる作品を分析した。特に注目したのは、リチャード・ライトの12 MillionBlack Voiceである。この作品の特徴は、ライトによって書かれた文章と、Farm Security Administration(農村安定局)に属し後にアメリカを代表する芸術家とみなされるようになった写真家によって撮られた黒人共同体の写真とが、一冊の本の中で並置されている点である。ここでは、白人芸術家による芸術的かつ政治的「フィルター」を通して映し出された黒人共同体像は、はたしてそれまでライトが描いてきた黒人共同体像といかに「一体化」しえるのかという問いが提起される。これについて、ワシントンDCのLibrary of Congressのドキュメンタリーセクションでの調査では、ある写真が本作品に収録されるにあたり当時の技術をもって「修正」を施され、当時の読者層を意識して、貧困にあえぐ黒人家族というイメージを本書のために作り上げたということが確認された。上記の調査に加えて、モロッコ人エステバニコなる人物を描いた、アーロン・ダグラスによる壁画に関する資料の収集を行った。エステバニコを描いた小説がモロッコ系アメリカ人作家Laila LalamiによってThe Moor's Account(2014)として出版されたことがわかり、本作品とダグラスの壁画創作とを関連付け、第54回日本アメリカ文学会全国大会(10月10日)にて「Aaron Douglas の失われた壁画とアフリカ人Estebanico の新大陸発見物語」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年夏には、ワシントンDCにあるLibrary of Congressならびにメリーランド州にあるNational Archiveにおいて、ニューディール時代に作成された壁画に関する資料収集を行った。壁画については現存されないものが多いため、壁画が作成された当時の様子を記録する写真を上記において確認することができた。また、Library of Congressのドキュメンタリーセクションにおいては、1930年代に記録された大量の写真をいかにして保管しているのかという分類方法について現地のライブラリアンからご教示をいただいた。これは計画外の出来事であったが、その分類方法より、ニューディール文化政策の組織の在り方が垣間見ることができ、その組織のなかでいかにアフリカ系アメリカ人が疎外されていたのかを確認することができた点で有意義であった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年にあたる平成28年度では、二つの方向性を探っていきたいと思う。それは、本研究の出発点であったゾラ・ニール・ハーストンの作品あるいは1930年代における彼女とニューディール政策との関係を、フロリダ州という、ニューヨーク州とは異なるかたちの多民族社会を形成した土地において再考する作業である。また他方では、平成27年度のワシントンDCできっかけを得た、リチャード・ライトと白人写真家との交流についてさらに深く考察する作業である。ライトについては、イエール大学のバイニキ図書館に彼が1930年代に交わした手紙などの一次資料があるために、当初は予定していなった場所ではあるものの、ハーヴァード大学と並んでニューイングランド地方屈指の本大学図書館にて資料収集を行うことも予定している。また、最終年にあたる本年においても、口頭発表や論文の形で研究成果を世に問いたい。
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