本研究は1930年代から40年代にローズヴェルト政権下で設置された「公共事業促進局」による「連邦作家計画」及び「連邦美術計画」に参加したアメリカ黒人作家芸術家の国家観や民族観を分析した。最終年にあたる平成28年は、まとめとしての成果発表と継続研究となる新たなテーマの発見を主たる目的とした。 成果①論文「ニューディール期のアフリカン・アメリカン芸術家による壁画―ヘイズ、シーブルック、ダグラス」(『実践英文学』第69号、2017年2月)。ここでは2014年8月のニューヨーク並びに2015年8月のワシントンDCで入手した一次資料をもとに、アメリカ黒人芸術家による壁画作品の技法と主題の関係を論じた。特にアーロン・ダグラスが、1920年代半ばから1940年代にかけて、ニューヨークからテキサスにおいて行った創作活動が、一方ではかつて1920年代ニューヨークを中心に享受されたモダニズムの技法を維持し、他方では1930年代にアメリカ黒人知識人および芸術家によって受け入れられたメキシコ経由の社会主義思想を合衆国の理念に取り込んでなされた点を明らかにした。 成果②研究発表「モリスンの『ホーム』にみる「保守」としてのセルフ・ヘルプ」(アメリカ文学会東京支部シンポジウム、2016年12月)。本発表では当初の「研究実施計画」には含めなかったトニ・モリスンの作品を中心に扱ったが、そもそも本シンポジウムの「アフリカ系アメリカ人にとっての保守」という主題は、ニューディール文化政策下で作品を創作したゾラ・ニール・ハーストンが、ニューディール批判として1950年代に入ってから提起した概念であり、その点において本発表は、三年間の研究の総括と継続研究の萌芽としての意義を持った。
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