研究実績の概要 |
これまでに、コシヒカリ/カサラス染色体置換断片系統 (CSSL) を用いて、生育初期の乾物生産速度を制御する量的形質遺伝子座 (QTL) 解析の検出を行った結果、カサラス型で生育初期の乾物生産を増加させるQTL (それぞれqEGR1、6、8、12) を特定した。昨年度までの研究によりqEGR1近傍がカサラス型に置換された染色体断片置換系統SL203は、純同化率(NAR)を増加させることにより相対成長速度(RGR)を増加させること、またこの増加はOsSPS1遺伝子の発現量増加と関連することを見出している。本年度は、コシヒカリを遺伝的背景とし、qEGR6、8、12近傍をカサラス型に置換した染色体断片置換系統SL218、SL223、SL238を用いて、qEGR6、8、12がイネの乾物生産を増加させる要因を調査した。SL218、SL223、SL238の初期生育期間における窒素吸収量を比較した結果、これらの系統はコシヒカリに対してそれぞれ1.37、1.52、1.41倍高いアンモニウムイオン吸収速度を示した。実際に、水耕栽培下でのアンモニウムイオンの吸収速度を測定した結果、これら3系統すべてでコシヒカリよりも有意に増加していた。qEGR6, 8, 12はアンモニウムイオンの吸収速度を増加させることにより初期生育速度を向上させていることが考えられた。 次に特定した4QTLがイネの収量およびバイオマス生産に与える影響を明らかにするために、圃場栽培を行った。収穫期における各器官のバイオマスを比較したところ、SL203、SL218、SL223、SL238はコシヒカリと比べて葉身・葉鞘・穂などの乾物が増加していた。これらのことから、初期の乾物生産速度の増加は、その後のバイオマス生産性に大きく影響することを確認することができた。
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