研究課題/領域番号 |
25870782
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
阿部 貴弘 日本大学, 理工学部, 准教授 (90549445)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近世城下町 / 町人地 / 水系 / 都市設計 / 設計論理 / 近代測量図 |
研究概要 |
水路網と街路網が複雑に入り組んだ、日本独自の都市構造を有する近世城下町町人地。その設計論理は、諸分野における長年の研究にもかかわらず十分には明らかにされてこなかった。本研究は、研究代表者がこれまでに構築してきた近代測量図の地図計測による定量的分析という方法論をより精緻に発展させるとともに、これまでに未解明な点が多い濠や掘割運河等の水系の設計論理を含めて、より詳細に近世城下町町人地における設計論理の全体像を解明することを目的としている。平成25年度の具体的な研究成果は、以下の通りである。 1.調査対象城下町の選定:調査対象地を選定するための5つの視点、(1)文献史料や絵図・地図等の残存状況、(2)町人地の面的広がり、(3)水系の発達状況、(4)近代以降の市街地の整備・改編状況、(5)既存研究の蓄積等のうち、特に(3)水系の発達状況を重視し、近世城下町町人地に準ずる武家地や港町も含め、和歌山、松江、高松、新潟、小幡を調査対象候補として選定した。今後、史料の残存状況等を加味し、調査対象地の妥当性を精査していく必要がある。 2.文献史料・絵図・地図等の収集・整理:調査対象地として選定した城下町について、文献史料や考古学資料、絵図や旧版地図といった都市設計に係わる資料、さらに関連する調査・研究成果等の収集・整理を行った。ただし、これらの史料については、今後も継続的に収集・整理を行い、調査対象地の精査に反映することを想定する。 3.既存の方法論に基づく各城下町町人地の設計論理の解明と方法論適用上の課題の抽出:大縮尺の明治初期の近代測量図が存在しない城下町であっても、近代以降、街路網や水路網の大幅な改変が行われていない城下町では、絵図や文献史料等により街路網や水路網の変遷を詳細に読み取り、重ね図等を作成することで、現代の地形図を用いた設計論理推定の可能性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象城下町の選定にあたり、当初は主に豊臣系列及び徳川系列の城下町を候補としていたが、それらはいずれも濠や掘割運河等の水系が十分には発達しておらず、そのため、平成27年度に実施予定の水系の類型化に向けて、妥当な調査対象地であるとは言い難い。そこで、あらかじめ研究計画においても想定していたように、豊臣系列及び徳川系列以外の城下町町人地や、町人地に準ずる武家地、さらに城下町に準ずる近世港町も候補として視野に入れ、調査対象地の再選定を行った。この調査対象地の再選定及び調査対象地に関わる史料等の収集・整理に時間を要したことから、これまでの達成度がやや遅れているが、平成27年度の水系の類型化等において良好な研究成果を得るためには、必要なプロセスであったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、平成25年度の研究成果を踏まえ、各都市の文献史料や考古学資料、さらに絵図や旧版地図等の他の文献史料等の活用・援用の可能性や、新たな分析視点の導入等の検討を行うとともに、現地調査を踏まえつつ、調査対象都市の横断的な比較分析に基づき、大坂及び江戸以外の城下町町人地においても適用可能となるよう、方法論の精緻化を図る。その際、特に「大縮尺の明治初期の近代測量図」の欠如を補うため、近代以降の都市整備の変遷を踏まえた現代図の援用、江戸期の各宅地の間口が記載されたいわゆる沽券図や絵図の活用、さらに発掘調査に基づく考古学資料の援用等について検討する。そのうえで、大坂及び江戸の町人地における設計論理や、水系の設計論理を踏まえ、精緻化した方法論を各城下町町人地に再適用し、それぞれの設計論理を解明する。なお、これらに並行して、調査対象候補地における史料の残存状況等を加味し、調査対象地を追加もしくは変更することも想定する。 平成27年度は、特に城下町町人地における水系の設計論理に着目し、「陸地掘り込み整備型」、湿地等排水のための「浚渫整備型」、河川河口部や海岸線の埋め立てに際しての「埋め残し整備型」といった、整備方法等に基づく水系の類型化を図るとともに、水系の整備位置や町人地における機能・役割などの面から、その特質を明らかにすることで、詳細な設計論理を推定する。 そのうえで、大坂及び江戸の町人地における既存研究では未解明であった点等を踏まえ、近世城下町町人地における設計論理の全体像を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査対象地の再選定を実施したことで、当初平成25年度中に実施する予定であった文献史料・絵図・地図等の収集・整理及び現地調査の一部を実施することができていないことから、次年度使用額が発生した。 平成25年度に実施することができなかった調査対象候補地における史料収集・整理や現地調査は、引き続き平成26年度に実施する予定である。
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