本研究においては、近世城下町大坂及び江戸に係わる研究成果を踏まえ、主に豊臣系列及び徳川系列の近世城下町5都市程度を対象として、既存の方法論を適用して町人地の設計論理の解明を試み、方法論適用上の課題を抽出した。具体的には、次の通りである。①近代測量図の地図計測という城下町町人地の設計論理を読み解く新たな方法論は、大坂や江戸のように、詳細な計測が可能な5千分の1程度の「大縮尺の明治初期の近代測量図」が存在する都市においては適用可能であるが、たとえば明治初期の迅速測図のように、2万分の1程度より小さい縮尺の近代測量図しか存在しない他の城下町では、地図計測を行う際に十分な精度が得られない。②街道、街路、街区、宅地といった、陸域の都市設計論理については解明することができたが、濠や掘割運河、下水路といった水系の設計論理については、位置決定の論理や幅員等の設計標準など、十分には解明できていない。 こうした課題を踏まえ、方法論適用上の課題解決に向け、特に「大縮尺の明治初期の近代測量図」の欠如を補うため、各都市に残された文献史料や考古学資料、さらに絵図や旧版地図といった他の文献史料等の活用・援用の可能性や、新たな分析視点の導入など、現地調査を踏まえつつ、調査対象都市の横断的な比較分析に基づき、方法論の精緻化を図った。 さらに、精緻化した方法論を各都市に再適用(フィードバック)することにより、各都市の町人地の設計論理の解明を通して、城下町町人地における設計論理の全体像を解明した。 なお、水系設計の論理については、方法論の精緻化と同様に、調査対象都市の横断的な比較分析に基づき水系の類型化を行い、各類型の特質を明らかにすることで、水系の詳細な設計論理の解明に向けた考え方を明らかにした。
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