近年、持久性運動能力向上を目的とした高地トレーニングのみならず、常圧低酸素ガスを利用した低酸素トレーニングが開発され、注目を集めている。常圧低酸素運動はアスリートのみならず、高地登山を目的とした一般の中高年登山者も利用し、全国的に普及しつつある。しかしながら、常圧低酸素ガスを利用した低酸素運動が人体の脳循環調節等に及ぼす影響を評価した報告はあまりない。そこで本研究では、その常圧低酸素運動の生理学的影響を脳循環調節機能の観点から評価することを目的とした。 過去の研究成果から常酸素下運動前後と比較して低酸素下運動前後では血圧の自発変動が増大し、脳循環調節機能が悪化すると仮説を立てた。その仮説を検証するため、本研究では、常圧常酸素下での運動と常圧低酸素(15%酸素)下での低酸素運動が脳循環調節機能に及ぼす影響を評価した。健康男性被験者14名を対象とし、常酸素運動実験と低酸素運動実験を行い、周波数解析・伝達関数解析および大腿カフ解除法を用いて、脳循環調節機能を評価した。 周波数解析・伝達関数解析の結果から、15%低酸素下運動では、運動前と比べ、高周波数帯(0.2~0.35 Hz:3.3~7.7秒/1周期)の領域で、血圧の自発変動は増大し、脳血流自動調節機能の評価指標であるCoherenceも有意に増加した。これらの結果から、高周波数帯領域での脳循環調節機能の悪化が示唆された。しかしながら、大腿カフ解除法では脳循環調節機能の悪化の可能性は示唆されなかった。
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