魚醤とは魚介類を原料として作られる液体発酵調味料である。従来、魚醤発酵は高塩環境下で発酵が行われるため、微生物の関与は乏しいと考えられてきた。一方で申請者は近年の種々の報告から魚醤内に微生物はもろみ中でバイオフィルムと呼ばれる塊を形成し、発酵や呈味・風味形成に関与するものと推察した。そこで本研究では発酵における微生物の動態とバイオフィルム形成の有無について調べ、魚醤発酵との関連性について検討を行った。 ニジマスを原料として作製した魚醤のもろみを定期的にサンプリングし、これを用いて分離培養を行った結果、Staphylococcusに属する複数の細菌が分離・同定された。これら細菌の中には10%の塩存在下においても増殖可能なものも存在し、またプロテアーゼ活性を有することも同時に確認された。また、本菌は塩存在下において非常に高いバイオフィルム形成能を有した。魚醤もろみの細菌叢解析を16S rRNA遺伝子を対象として行った結果、Staphylococcus属細菌は3か月の発酵期間中優占種として検出された。これらの結果について、H26年度の食品科学工学会 関東支部会にて発表を行い、申請者が指導する学生がポスター賞を受賞している。これまでに様々な魚醤よりStaphylococcus属細菌の分離・同定例は報告され、これらは主に香気の生成に寄与するものと考えられてきた。本研究成果により、新たにStaphylococcus属細菌はもろみ内で塊を形成し、タンパク質分解、アミノ酸生成にとって重要な役割を果たしているものと考えられた。これら細菌種を固定化担体等に付着させ、発酵槽内へ導入することにより、高い発酵能を得られるものと期待される。
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