研究課題/領域番号 |
25870791
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高野 初美 日本大学, 生物資源科学部, 研究員 (40647103)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | メタン発酵 / 再生可能エネルギー / 木材チップ |
研究概要 |
本研究は、木質バイオマスの活用法として、木材チップをメタン発酵によりバイオガスに転換しエネルギー資源とするための基礎的知見を得ることを目的とした。まず、木材チップを効率よく分解し、メタンガスを発生する微生物群集の構築を試行した。敷設木材チップまたは木質堆肥を嫌気性菌用合成培地に添加し、新鮮な木材チップを1週間に1回投入しながら55℃で半連続培養(HRT210日)を開始した。その結果、本条件によるメタン発酵微生物群集の立ち上げには、木材チップだけでなく窒素源として塩化アンモニウムの添加が効果的であること、発酵の安定化には約20週の培養期間が必要であることが分かった。また、チップ状と粉状木材のそれぞれを基質とした場合、バイオガス中のメタンの割合は粉状木材の方がチップ状より1.5倍高かった。次に、本培養液からDNAを抽出し分子生物学的手法を用いた菌相構造解析を行った結果、真正細菌相は多様性が高い一方、メタン生成アーケア相は数種の基質資化性の異なる菌相で構成されていることが示唆された。さらに、敷設木材および木質堆肥には約450属の真正細菌群が存在し、それらを高温メタン発酵に馴養すると、特定の嫌気性細菌群が優占化するとともに、グラム陰性細菌群の割合が減少することが明らかとなった。 主要機能微生物の探索として、木質堆肥からリグニン分解性の担子菌3株を取得した。遺伝子配列の解析からタマハジキタケ類縁菌と推定されたこれらの真菌は、木材チップで良好な生育を示したことから、メタン発酵に用いる木材チップの前処理に利用が期待される。また、本研究で構築した高温性半連続メタン発酵液に存在する嫌気性セルロース分解菌の分離および同定を試みた。ろ紙を用いた分離法では、高温性のセルロース分解菌として知られるクロストリジクム属細菌群および未同定細菌種の配列が複数検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木材チップ分解メタン発酵微生物群集の確立に関しては、粉状木材を基質とする半連続培養により馴到したメタン発酵微生物群集の発酵経過観察および安定化条件の検討が順調に進んでいる。菌相構造解析は分子生物学的手法を中心に実施し、網羅的な情報収集およびメタン発酵の各分解ステップに関与が予想される菌群に焦点を絞った同定が順次進行している。機能微生物の分離に関しては、難培養性細菌が多いため分離・同定に至らない標的細菌種がいるものの、遺伝子配列情報から既知菌株の培養条件を参照すること、あるいは木質由来成分を用いた独自の培養法を試すことで菌株の取得が可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画については、次のように進める予定である。1)木材チップ分解性メタン発酵微生物群集構造の解析と分離同定に関しては、遺伝子情報を詳細に解析することで系統発生学に基づく分類を進め、菌相構造の解明を行う。また、基質の糖化とメタン生成に関与する菌群に焦点を絞り、本研究で構築したメタン発酵液内で機能する主要な菌株の特定と分離培養を進める。2)高機能メタン発酵微生物群集の構築と性能評価に関しては、粉状木材を基質とした発酵分解が良好であるという結果を受け、さらに分解時間の短縮およびメタンガス比率の上昇を目標に発酵条件の検討を行う。その際、小規模発酵槽へのスケールアップを実施し、負荷が高くなった場合の運転制御に関する知見を得ることを視野に入れて検討を行う。また、基質分解量とバイオガス転換効率を調査し、エネルギー収支を計測することで微生物群集の機能的な特性を明らかにする。さらに、木材チップの前処理として、本研究で分離した担子菌を利用した腐朽処理を実施することで、分解率の向上およびガス転換効率の上昇が見られるがどうか検討を行い、分離株の有用性を明らかにする。3)木材チップメタン発酵微生物群集の潜在能力の発掘に関しては、放射能汚染された木材や草本系バイオマスの分解処理を想定し、発酵処理廃液の減量化にむけた運転条件の検討や基質を稲わらにしてメタン発酵を試行することでメタン発酵の適応分野開拓を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に予定した一部の培養および解析試験を延期ないし延長した。それに伴い、関連する消耗品の購入ならびに分析委託を次年度に実施することが望ましいと判断したため。また、試験結果が良好な場合、培養装置のスケールアップを実施することが望まれ、それに関連する支出が翌年度に必要となる可能性が考えられたため。 前年度とほぼ同様に培養と分析に係る消耗品の購入ならびに関連する分析委託費用として使用することを予定する。また、試験結果が良好な場合は、培養装置のスケールアップに関連する耐久消耗品類の購入に充てる可能性がある。
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