研究課題/領域番号 |
25870792
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
阿部 芳憲 日本医科大学, 付置研究所, 助教 (00386153)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 非小細胞肺癌 / 慢性炎症 / 遺伝子転写制御 |
研究概要 |
慢性炎症は癌発症の主要な原因の一つである。申請者は、慢性炎症と癌化に深く関わる転写因子STAT3とHedgehog (Hh) シグナル伝達経路との間に新しい相関関係が存在することを示唆する結果を得た。本研究は新しい癌治療法の提唱を見据え、STAT3活性化経路からHhシグナル伝達経路への新しいシグナル伝達機構を解明し、癌化に関わるシグナル伝達ネットワークの分子機構に、新しい知見を加えることを目的としている。 本研究申請時は大腸癌に焦点を当てて研究する予定であったが、日本医科大学呼吸器内科学講座との共同研究を行うことが決定したため、焦点を当てる癌を非小細胞肺癌に変更した。肺癌は日本人が罹る癌の中で上位に入り、その中でも非小細胞肺癌は肺癌全体の大部分を占めると言われている。現在まで非小細胞肺癌における抗癌剤(イレッサなど)が開発されて臨床で用いられているが、患者への投与中に癌細胞が抗癌剤抵抗性を獲得したり、現在用いられている抗癌剤が効かない非小細胞肺癌もある。従って対象を非小細胞肺癌に変更しても、本研究の重要性は損なわれないと考えられる。 本年度は、Hh経路におけるリガンドとなるSonic hedgehog (Shh) 遺伝子が発現していることをいくつかの癌細胞由来細胞株において確認するとともに、Shh遺伝子がSTAT3阻害剤によって、その発現が抑制されることを明らかにした。さらにSTAT3結合配列がShh遺伝子の翻訳開始点上流に複数存在することを確認した。これらの本年度の研究成果から、非小細胞肺癌細胞において全く新しいShh遺伝子発現誘導機構が存在することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずはじめに非小細胞肺癌由来癌細胞株を4種 (A549, HCC827, HCC4006, PC9) 入手し、STAT3が恒常的に活性化されていることを、STAT3の705番目のチロシン残基を特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロット法を行って明らかにした。さらにこれらの癌細胞株では正常細胞と比べ、Shh遺伝子の発現が高いこともリアルタイム定量PCR法などで明らかにした。 次にこれらの癌細胞株にSTAT3阻害剤(LLL-12およびSTA-21)を処理した時にSTAT3の転写活性が抑制されるとともに、細胞増殖能が抑制されることを確認すると共に、細胞をトリパンブルー染色することによって、STAT3阻害剤処理によって細胞死が促進していることも確認した。さらにSTAT3阻害剤処理によってShh遺伝子の発現が抑制されることを、リアルタイム定量PCR法などによって明らかにした。 これらの結果を踏まえ、Shh遺伝子上流にSTAT結合配列の有無を詳細に調べた結果、Shh遺伝子翻訳開始点上流2kbの間にSTAT結合配列が17カ所存在することが明らかになった。現在ルシフェラーゼアッセイ法による、STAT3結合領域特定のためのレポータープラスミドの作製が完了した。 平成25年度内にSTAT3結合領域決定なまでは至らなかったものの、レポータープラスミドの作製まで完了していることから、平成26年度内の早い時期に結果が得られるものと考えられる。それ以外については申請時の計画通りに実験が進行もしくは実験結果を得られており、現時点では本研究は概ね計画通りに進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度中に結果を得られなかったShh遺伝子の翻訳開始点上流に複数存在するSTAT結合配列のうち、どの部位にSTAT3が結合してShh遺伝子の転写制御に関与するのかを明らかにする。また本研究課題の研究計画の中でNF-kBのShh遺伝子の転写制御への関与を調べる実験は、p65欠損細胞が使用できないことが判明したため、RNAi法を用いたp65の発現抑制を行って調べる。 またマウスを用いた実験は申請時の実験計画を変更し、Shh遺伝子が発現している非小細胞肺癌由来癌細胞株をヌードマウスに移植して腫瘍形成させた後、腫瘍部位にShhに対する中和抗体を接種して、腫瘍形成の縮小の有無について検討する予定である。 さらに申請書の実験計画には記載していないが、非小細胞肺癌患者由来の組織を用いて抗Shh抗体を用いた免疫組織染色法を行って、実際の癌組織でShhが過剰発現しているかどうかだけでなく、非小細胞肺癌組織においてShhが過剰発現している細胞の特定を試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、以下の理由により繰越金が発生した。 1. 細胞培養関連の消耗品について、当初想定していたより低価格の製品を使用することができたため。 2. 購入予定であった抗体などの比較的高額な試薬類の中に、申請者の所属研究室においてすでに購入してあった試薬が、本研究計画に記載されていた実験に使用可能であったため。 実験計画に記載されている実験の遂行の他、次に示すの実験の遂行に助成金を使用する。マウスを使用した腫瘍形成実験では、レンチウィルス発現系によってルシフェラーゼ遺伝子を恒常的に発現する非小細胞肺癌由来癌細胞株を使用することとした。この細胞を用い、腫瘍形成後にルシフェラーゼの基質をマウスに腹腔内投与することで、腫瘍が化学発光を起こす。この光の強さを申請者の所属機関にあるIVISイメージアナライザーにて定量化する。この実験系を用いることで、腫瘍の大きさを簡単に数値化できる利点がある。 この実験系を確率するめのルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだプラスミド(11万円)およびレンチウィルス作製キット(15万円)およびマウスに投与するルシフェラーゼの基質(10匹分で6万円)の購入費に充てることとした。
|