本課題研究では、代表民主制下における市民の投票への参加と棄権の行動について、市民の小さな結託がおよぼす影響を理論的に明らかにすることが目的であった。私たちは選挙の際、従来のモデルが想定するような自分が選挙の決定権を握る確率を考えながら投票をしていない。むしろ、市民同士の横のつながりが投票行動に影響を与えている。そこで本課題研究では、このような横のつながりを市民同士の小さな政治的結託と考え、市民を連続で扱い、(1)市民が戦略的に投票をする場合と誠実な投票の場合で参加と棄権の行動がどう変わるのか、(2)結託が候補者決定過程にどう影響するのかについて明らかにすることが目標であった。 本課題研究は分析すべきモデルが複雑で、当初の目標を達成する形で完了できなかった。しかし(2)については明らかにすることができた。これについて論文として現在まとめている。これとは別に本課題研究の着想の元になっている米国のような2大政党がどのように形成されるのかを、結託した市民の移動によって説明する共同の理論研究を2013年にEconomics of Governanceに投稿した。2015年度はこれについて編集者と査読者からの質問と修正要求に応じて改訂作業を共同研究者と進めた。結果、2015年10月に受理された。また、選挙が重層的に実施された場合に得られる結果が単層の選挙に比較してどう変わるのかという本課題研究と密接に関連する別の共同研究の改訂作業を進め、2015年9月にJournal of Theoretical Politicsに投稿した。現在、査読結果を待っている。さらに2015年度は、本課題研究の関連する形で集団内において構成員の努力がまとまった時に初めて集団の成果になる場合、構成員はどう努力をするのかという別の共同研究を始めた。現在、その分析を進めており、本課題研究は発展的に引き継がれる。
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