薬物同士を組み合わせることにより,室温で塩となる複合体,すなわちイオン液体を形成し,その物理化学的特性と皮膚透過性を確認した.非ステロイド性消炎鎮痛剤であるフルルビプロフェン(FLU)と局所麻酔剤であるリドカイン(LDC)とを,モル比1:1の割合でエタノールを用いて加熱混融することにより,室温でゲル状の非晶質複合体の形成を見出した.この複合体中におけるFLUとLDCとの分子間相互作用について評価を行った.全反射型-FTIR測定の結果から,複合体ではFLU単味由来の1695 cm-1のピークが消失し,1686 cm-1に新たなピークが観察された.次に,-100から130℃の温度範囲で示差走査熱量測定を行った結果,複合体では薬物単味の融解に伴うそれぞれの吸熱ピークは消失し,明瞭な吸熱ピークは認められなかった.また,13C固体NMR測定を行った結果,複合体では11.0 ppmにFLU,LDC単味では認められなかったピークが新たに出現した.また,FLUのカルボキシ基を形成する9位の炭素由来のピークが単味では184 ppm付近に観察されたのに対し,複合体では178 ppmに観察され,高磁場シフトしていることが確認された.さらに,FLUおよびLDC単味において110から140 ppm付近に認められる芳香環部由来のピークは,複合体ではブロード化していることが分かった.以上より,FLUとLDC間では分子複合体が形成され,その結果,ゲル状物質が生じていることが明らかとなった.さらに,ヘアレスマウス皮膚透過性を行ったところ,複合体からのFLUの皮膚透過性はFLU単味よりも約2.5倍増大した.これは,複合体中のFLUの溶解度が単味と比較して約150倍増大したことに起因していると考えられた.以上より,FLUとLDCはイオン液体を形成することにより,新たな経皮吸収型鎮痛剤となる可能性が示された.
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