研究課題
本研究の目的は「炭化球根」と呼ばれていた鱗茎を種レベルで同定し、縄文時代の植物利用を検討することである。鱗茎(りんけい)とは、鱗片が複数重なる構造をもつ球根である。食用可能な鱗茎には、野生植物ではノビルやアサツキ、ヤマラッキョウ、ツルボ、アマナ、キツネノカミソリ、外来植物ではヒガンバナ、栽培植物ではニンニクやラッキョウなどがある。遺跡から出土する鱗茎は、土器内で調理されて炭化し、土器の内面に密着して出土する土器付着鱗茎と、炉などから単独で出土して食料にされたと推定されるものがあり、異なる調理方法があったと推定される。本研究では、現生の未炭化の鱗茎と炭化資料で種レベルの識別方法を検討し、外部形態(横断面)と細胞構造(表皮・下表皮(葉肉)細胞)が鱗茎の識別に有効なことを発見した。さらに、ツルボには葉肉細胞内に形成されるシュウ酸が識別点になると発見した。また土器を用いて炭化実験を行い、デンプン質を多く含むツルボの鱗茎のみが出土土器付着鱗茎と同じように密に付着する点を確認した。この方法を用いて、国内最古の土器付着鱗茎である縄文時代前期の福井県鳥浜貝塚と、縄文時代中期の山梨県前付遺跡、弥生時代前~中期の徳島県庄・蔵本遺跡の土器付着鱗茎の同定を行い、ツルボであることを実証した。さらに韓半島の新石器時代早期の土器付着炭化鱗茎もツルボと同定し、韓半島の新石器時代でも利用されていたことを実証した。ツルボは日韓の新石器時代では重要な食料資源の一つであった可能性がある。ツルボは、キジカクシ科ツルボ属の多年草であり、土手や日当たりの良い場所に生える(林,1983)。えぐみがあるため、利用にあたってはアク抜きが必要で、民俗事例では水にさらしたり、数日間の煮沸を行ったとされる。土器に付着した鱗茎も煮沸の途中に焦げてしまったと考えられる。
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http://doi.org/10.1016/j.quaint.2016.04.004