本研究は、現代ハラール産業の展開と実態および個人のハラール認識と実践にみる宗教的規範の再解釈と受容について、中国・台湾・マレーシア・日本の事例を比較検討することであった。最終年度は、以下の補足調査を行うとともに、マッピングとグローバル化するハラール産業における各国の位置づけと連関を検討した。1) 日本では、地方行政、民間によるムスリム旅行者対応をめぐる取組について調査を行った。ムスリムと非ムスリムの協働がみられる一方で、生活者の視点からは「選択肢が拡がる」、「イスラームを知るよいきっかけになりうる」という声とともに「過度な対応はいらない」、「ハラール」という用語使用の是非を問うなどの声があがっている。日本でのハラール認識の醸成にあって、こうした多声性、生活者の経験知がいかに活かされていくのか注目される。2) タイでは、タイ・ハラール産業ビジネス科学会議に参加し、中国・台湾・マレーシア・日本のハラール産業関係者の聞き取りを行うとともに、展示会への各国の出展状況を確認した。3)トルコでは、欧州市場のハラール基準の策定をめぐるハラール認証団体の会議に参加した。この結果、ハラール産業の中心の多極化と基準策定のイニシアチブ、用語としての「ハラール」、ムスリムと非ムスリムの参画をめぐる議論を確認した。4) アジアのハラール産業において、政府・産業レベルの制度化、標準化、旅行者対応では マレーシアの事例が核のひとつとして参照・展開すると同時に、各国の脈絡に根ざした再解釈と工夫がみられる。中国、台湾とマレーシアの事例について国際学会で発表しフィードバックを得るとともに、国内の公開講義・市民講座等において成果の社会還元に努めた。
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