点字読書速度は、点字の習熟を評価する重要な指標であるが、文章内容により速度が変わってしまうという問題がある。そのため、読書に使用する文章が異なると、構成されるマスの複雑さや意味内容が変わってしまい、学習の習熟や指導法の効果を読書速度をにより客観的に評価することが難しいのである。そこで、点字読書速度を客観的に評価するための指標の開発を目指し、指標の開発のベースとなるデータの収集のための実験を昨年度に引き続き実施した。実験では、79名の点字ユーザに対して、文章特性の異なる25種の文章を読み上げる課題に加え、点字の利用状況等に関するインタビュー、触覚の空間分解能やワーキングメモリなどの認知特性の測定を行い、読書速度に与える個人特性と文章特性の影響を重回帰モデルにより定量化することを目的とした。実験の結果、文章ごとに算出した読書速度の平均は、最も早く読めた文章と遅く読めた文章の間で67マス/分もあることが示され、文章の違いを考慮した指標の重要性が再確認された。また読書速度に影響する要因を重回帰モデルにより評価を行うため、参加者ごとに複数の文章の読書速度が個人にネストされた階層的な実験データの構造に即した分析を行う必要がある。つまり、文章レベルと個人レベルに基づく階層線形モデルにより、変数間の関係を検討することとなる。本研究では、階層ベイズモデルにより、読書速度を個人特性や文章特性に関する変数で予測する最適最小モデルを構築した。このモデルに基づき、文章の難易度を客観的に評価することができる。今後、このモデルを通じて難易度の評価を行い、選定された文章を点字読書チャートとし、HPにて公開する予定である。
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