手術ナビは術具の位置をリアルタイムで観測し、MRIなどの医用画像に重畳して表示する装置で、外科手術の安全性や確実性の向上には不可欠な技術である。測位方式には光学式と電波式があるが、前者はカメラの死角、後者は金属製器が近くにあると正確に測位できないといった制限がある。そこで本研究では、上記の制限を受けない手術ナビを実現するため、低周波磁気信号を利用した位置観測手法を確立した。 平成25年度は提案手法の実現可能性を検討するため、手術器具が発する磁気ノイズの計測や、金属内に流れる渦電流に関するシミュレーションを行った。本研究で提案する手法の有効性を示すとともに、利用する磁気信号の周波数帯域を数十~数百Hzの範囲でかつ可変にすると決定した。平成26年度は新たな材料を用いたフラックスゲート磁束計の開発も進めたが、新たに市販された高感度磁気センサを利用した方がより効率的な研究ができると判断し、市販センサを用いてセンサアレイを構成した。さらに、磁気マーカーコイルやアンプ回路、データ収録用のハードウェア、及びこれらを制御し、データの収録・解析・表示を行うソフトウェアを加えて、試作システムを製作した。 試作した位置観測システムを利用した動作実験では、磁気マーカー位置の計測精度、領域、速度等について概ね目標とする性能が得られることを確認した。より実際の手術ナビに近い形にするため、磁気マーカーを4個搭載したプローブを製作した。リアルタイム(1秒間に10回程度の頻度)でプローブの位置を表示することによって、より使いやすいシステムに改善する事ができた。また、本研究での目的である、金属器具が近傍に存在する場合での位置計測実験を行い、本手法による「自由空間型手術ナビ」の実現可能性を示すことができた。
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